その日の夜。巡回を終えた私は、のんびりと部屋で漫画を読んでいた。

 そろそろ寝ようかと思ったとき、コンコンとドアがノックされた。

「はい、どなたですか」

 もしかして、土方さん? お茶のお誘いかな?

 ベッドから飛び起きてドアにへばりつくと、聞こえてきたのは意外な声だった。

「美晴ちゃん、ちょっといいかな」

「原田先生?」

 踊っていた胸は平静を取り戻した。ドアを開けると、原田先生が部屋着姿で立っていた。

「話があるんだ。少し付き合ってくれる?」

 原田先生は私を中庭に誘った。わざわざ寮生に見つからない時間に来たのだろう。

 土方さんにふたりきりになるなと言われているけど、業務上の相談だってあるよね。でも、なぜ裏庭なんだろう。

 疑問に思いつつ、原田先生のあとをついていく。


「俺さ、寮生と一緒に修学旅行に行かないかって理事長に言われたんだ」

 職員用出入り口から外に出る。靴を履きながら原田先生が言った。

「でも、断ったんだよ。他の学年の生徒もいるわけだし」

 特に三年生で受験を控えた寮生には、原田先生がいなくてはならない。もっともな言い分だ。

「美晴ちゃん、俺の代わりに土方さんと京都に行かない?」

「えっ?」

「寮生に緊急事態があったときのためにさ。彼らは旅行に慣れていないから、なにかトラブルを起こさないとも限らない。理事長がそこを特に心配しているんだ」