「左之には気をつけろ」

「はい?」

「あいつはいいやつだが、無類の女好きだ。なにがあるかわからねえから、絶対にふたりきりになるなよ。部屋に入るなんてもってのほかだ」

 自分だって無類のモテ男のくせに。私の部屋にだって、平気であがりこむ。なのに原田先生はダメらしい。

「やだなあ、大丈夫ですよ。原田先生はいつも冗談でかわいいとか言うけど……」

 職場でひどい噂を流されたばかりなので、同僚に手を出すなんてしないと思う。しかも、こんな平凡女子の私に。

 へらりと笑った私の顎を、土方さんが掴んで自分の方に向けさせる。

「いいから俺の言う通りにしろ。わかったか?」

 顎をクイと上げられ、無理やりに視線を合わせられた。

 黒真珠のような瞳に、自分の姿が映る。こんなに近くで見られていると思うと、体に火がついたように熱くなる。

話したら、私の息が彼の唇にかかってしまいそう。

 頷くこともできず、小さい声で「はい」と答えた。

 こんなことも、原田先生がしたら怒るのかな。だとしたら、どうして? 私は土方さんの彼女でもなんでもないのに。

 とりあえず承知すると、土方さんは満足そうに頷き、手を離した。