「ごちそうさま、トシさん」
食器を返した原田さんを一瞥し、土方さんは黙って乱暴に食器を洗った。
「美晴、もういいぞ。あとはやっておくから」
「あ、はい」
たしかに、残った仕事はほとんどない。部屋に帰ろうとすると、原田先生に肩を叩かれた。
「じゃあ俺と部屋まで行こうか、美晴ちゃ」
原田先生が言い終わらないうちに、土方さんが顔を上げて私たちをにらんだ。
「待て。やっぱり美晴はまだ明日の食材の確認があるんだった。左之だけ行け」
「ええ?」
「お前がさっさと風呂に入らねえと、俺の順番が回ってこねえだろ」
不満そうだった原田さんは、数回瞬きすると、急に得心したように手を叩いた。
「そっか。そういうことか。最初から素直に言えばいいのに」
たしかに職員用のお風呂はひとりずつしか使えない。男性職員は寮長もいるので、空いている人からさっさと使うに限る。
「なに気色の悪い顔してやがる。斬るぞ」
土方さんが包丁をにそにそ笑っている原田先生に向ける。それはシャレにならないからやめてほしい。
「べつに。じゃあね、美晴ちゃん」
原田先生は逃げるように食堂から出ていった。
「ったく、あいつは昔から見境がねえんだから」
ぶつぶつ言いながら、食器を洗って片付け終えた土方さん。