「刀がねえ! てめえ、俺の刀をどこにやった!」
掴みかかってきそうな勢いの彼に、私は目を白黒させる。
「ええと、危ないので預かっています」
「なんだと。お前は何者だ。ここはどこだ。いったい俺は……」
彼はもう一度周囲を見回し、頭を抱えてしまった。頭痛がしてきたのはこっちの方だ。
うーん、この人本気で言っているように見えるけど、どうなんだろう。コスプレで何かのキャラになりきっているだけ? だとしたら、いろいろな意味で危ないが、コミュニケーションが取れなくてはこのあとどうすることもできないので、彼に話を合わせてみる。
「私はここの管理人です。ここは日本にある、学生寮です」
「学生寮?」
「十代後半の男子が親元を離れ、ここで共同生活をしているのです」
できるだけ冷静に話そうと努めると、彼も怪訝そうな顔をしながらも、少しずつ落ち着いてきた。
「日本か。とんだ近代建築だな。こんなものが京にあるとは知らなかった」
「京……京都ですか。ここは愛知です。昔で言うと……三河、かな」
「三河だと?」
三河には聞き覚えがあるらしい。いつまで時代劇キャラを続けるつもりなんだろう。対応するこちらも息切れがしてくる。
「私はここの寮母、上野美晴二十三歳です」
「二十三。案外年増だな。夫はどこだ」
この言い方にはカチンときた。二十三歳が年増? パートのおばさんはどうなるのよ。