「あっ」
触っちゃった。反射的に手を引っ込めると、原田先生は目を細めて微笑む。
「この寮に美晴ちゃんがいてよかった。かわいい女の子はみんなの癒しだよ」
また、軽く「かわいい」と言う。前の学校でトラブルになったことを反省していないのかしら。
「私なんて、寮生から見たらおばさんですよ」
「俺やトシさんから見たらお嬢さんだよ」
「ははは……」
乾いた笑い声しか出てこない。そう言ってもらえるのはうれしいけど、別に寮母にかわいさは必要ないし。
おかしいな。土方さんにかわいいって言われたときは、もっと恥ずかしかったのに。
心拍数が上がって、頬が熱くなって、胸の奥が引っ掻き回されるようで。
ところが原田先生に言われても、恐縮するばかりで、照れくさくはない。先生が言いすぎるから慣れちゃったのかな。
「おい左之。無駄話してねえでさっさと食えよ。片付かねえじゃねえか」
苛立ったような声が厨房から聞こえてきた。土方さんが鬼のような顔でこちらをにらむ。どうもご機嫌が悪そうだ。
「明日からは、寮生の入浴中に食事してください。みんなそうしてますし」
今夜は押し寄せた寮生のためにプリントなどを追加で用意していて、原田先生だけ食事が遅くなってしまった。明日からは少し多めに準備をするそうだ。
「ありがとう。そうするね」
にっこりと笑った原田先生は、それ以上土方さんを怒らせるようなことをせず、もくもくと食事を平らげた。