原田先生はすぐに、寮生の人気者になった。

「飯作るだけのうるさいおっさんより、全然役に立つぜ。教え方がうまいんだよな。おかげで俺初めて課題を提出できたし、英語で当てられてもつっかえずに教科書読めたからな」

 そんな土方さんへの陰口を聞いて、悲しくなった。土方さんが行動したおかげで、原田先生が派遣されてきたというのに。

「いいんだよ、美晴。土方さんは新選組のときからそうだったから。陰で力を尽くしているのに気づかれず、恐れられ、煙たがられて。でもそれで組織がまとまるなら満足。土方さんはそういう人だから」

 唇を噛んで耐えていた私に、沖田くんが囁いて去っていった。彼は原田先生と雑談するのは大好きだけど、勉強には興味がないらしい。

 学習室は寮生の帰宅後すぐに満室になる。受験勉強だけでなく、宿題を聞きに来る子も多いという。

 寮生の夕食後も入浴後も熱心に指導してくれるおかげで、原田先生の食事の時間がすっかり遅くなってしまった。

 原田先生は住み込みで、昼過ぎから夜中までの勤務となっている。学習塾と一緒だ。夕食を兼ねた休憩は暇なときにとるという、ざっくりした契約らしい。

「先生、ありがとうございました。すごくわかりやすかったです!」

「おう、また明日な」

 湊くんが丁寧にお礼を言って、最後に学習室をあとにした。私たちは共に食堂に向かう。

「あー、腹減ったぁ。それにしても意外だなあ。あの土方さんがおとなしく寮母をやっているとは」

「そうですね。やっぱり土方さんはこんなところにいちゃもったいないですよね」