私も思わず手を止めて原田先生を見てしまった。異動でも停職でもなくてクビ。よほどのことをやらかしたのか?
「ある女生徒と、不純異性交遊した。生徒の母親数人にも手を出した」
「うそ⁉」
「って噂を流されたんだよ。生徒の母親に言い寄られたことがあるんだが、やんわり断った。そうしたことへの報復なのか、悪い噂を立てられ、辞職に追い込まれた」
土方さんも作業の手を止めた。
「証拠はあったのか」
「いいや。でも古い考えの学校だったからね。被害者が大声を上げたら、証拠なんてなくても関係ない。保護者はお客様であり神様だから。俺ひとりを辞めさせれば、手っ取り早く解決できる」
沖田くんが口をへの字に曲げた。
「左之さんは、おっさんたちの嫉妬も買ってたんじゃないの?」
おっさんたちとは、原田先生が前に勤めていた学校の男性教諭たちだろう。
「そうかもな。ま、俺もそんな腐った学校うんざりだったから、すっぱり辞めてやったさ。しかしそのあと、雇ってくれるところがなくてな。実家にも戻ってくるなと言われた」
複数の生徒や保護者に手を出したという噂は、思いのほか広範囲に広まっていたという。