「原田先生。寮の案内は終わったんですか?」

「うん。夕食の時に寮生に紹介してくれるって。それはそうと、もしそのあとで時間があったら、ちょっと手伝ってほしいんだけど」

「お手伝いですか?」

「学習室に、教科書や参考書、奨学金制度のパンフレットなんかを置きたいんだ。今荷物が届いたんだけど、ひとりで整理するのは大変そうで」

 なるほど。それは大変そうだ。今まであまり使われなかった学習室で勉強を教えたり、進路指導をしようというのだろう。幸い、こっちの事務作業はそれほど急ぎでやらなくてはならないものではない。

「いいですよ。やりましょう」

 快適で充実した学習室ができたら、湊くんはどれほど喜ぶことだろう。彼の笑顔を思い浮かべると、やる気が出てきた。

「ありがとう。美晴ちゃんって、かわいいしいい子だね」

 そういうことをさらっと言えるキャラに慣れていないので、どぎまぎしてしまう。

「あはは、冗談ばっかり」

 軽く流し席を立つと、ガラッと職員室の戸が開いた。

「美晴、戻ったか。ちょっと倉庫まで来てくれ。食堂用の蛍光灯の在処がわからん」

 軍手をした土方さんが、私の隣に視線を移した。

「美晴、そいつはいったい誰だ」

「え、ああ、新しくこの寮で働くことになった原田先生です」

 険しい顔をした土方さんが近づいてくるにつれ、彼の眉間にしわが寄り、目が吊り上がる。土方さんは原田先生を凝視していた。