「で、あの店で売っていたから買ってきた。どうだ。あ、総司には内緒でな」
土方さんは、カヌレの箱を再び掲げた。私のために買ってきてくれたと思うとうれしくなる。
「はい。すみませんでした。お茶かコーヒーを淹れましょうか」
あの人は彼女じゃなかった。学園の教師に直談判しただけだった。
事実を知った私の心は嘘のように軽くなった。立ち上がろうとすると、彼はにいっと口の片端だけを上げた。
「コーヒーで頼む。それはさておき、『私なんかに優しくするのはよくないと思う』とはどういう意味だ」
「はうっ」
覚えていたか。そんなことを口走ってしまった自分を呪う。
「お前、もしかしてやきもち焼いてたのか?」
「はあーっ? ち、ち、違いますしー。全然、そんなじゃないですしー」
裏返った声で否定する私を見て、土方さんは声を出して笑った。
「まあいいか。それより、二度とそんなこと言うんじゃねえぞ」
「そんなことって」
土方さんはいつものように、私の頭に大きな手のひらをのせて言った。
「お前は、『私なんか』じゃねえよ」
ぽんぽんとバウンドさせた手を離し、優しい目で私を見つめる土方さん。
私はどう反応していいかわからず、照れくささを隠すように、そそくさと食堂に向かった。