「で、見返りとかは? 進路指導をする代わりに、また逢引しようなんて、誘われませんでした?」
「たまに食事をしようとは言っていたな。俺は寮母の仕事があるから、スマホで連絡を取ろうと答えた。今度は美晴も一緒に話を聞きに行こう」
それは、小野先生的にはがっかりなのでは。まあ、理事長が間に入ってくれれば、なんとかなるだろう。
「そっか……湊くんのために、動いてくれていたんですね」
土方さんが真剣に寮生のことを考えてくれていると思うと、ささくれだった心が温まっていく。
すごいな、土方さんの行動力。私ももっと、寮生のために積極的にならなきゃ。
「兵は拙速を尊ぶと言うだろう」
「誰の言葉ですか?」
「孫子だ。あれこれ考える前に、行動した方がいいってことよ」
だいぶ説明をはしょられた気がするけど、まあいい。みんなに相談して無駄に時間を食うより、直接当の本人に話をしに行ったということだろう。
「よかった……」
ぽろっと零した言葉に、口を押さえた。今の、聞かれたかな。
「ああ。これから寮生の選択肢が広がるといい」
湊くんのことがいい方に向きそうで「よかった」のだと思ったらしい。私は安堵した。彼女でもないくせに、知らない女性に勝手に嫉妬した醜い自分を隠したかった。