短時間で戻ったので、私と沖田くんが無断外出したことは、誰にも気づかれていなかった。
沈んだ気持ちで食堂の片付けとお風呂を済ませ、部屋に戻ると、バッタリと土方さんに遭遇してしまった。
ちょうど帰ってきたところなのだろうか。彼はいつもと変わらない……いや、少し浮き立ったような顔で話しかけてきた。
「おう美晴、こっちでこれ食わねえか」
土方さんが得意げに取り出したのは、箱に入ったカヌレだった。
デートから帰ったばかりで、私を部屋に誘うなんてどうかしている。単に女性として意識されていないだけかもしれないけど。
「いいえ。あまり部屋を行き来していると、寮生にからかわれるので」
感情を押し殺した声は、自分で思っているより暗くて低かった。
「別に、ガキどもになんて言われたっていいじゃねえか。やましいことなんてないだろ? 話したいことがある」
そうですよ。やましいことなんてないですよ。悔しいくらいにね。意識しているのは、私だけなんだもの。
ああ、ダメだ。私ちょっとおかしい。いつもの私じゃないのが自分でわかる。