私が答えると、沖田くんは「ハッキリさせよう」と言って電柱の陰から出ようとした。

「待って! 行っちゃダメ!」

 土方さんに幕末に帰ってほしいからと言って、彼の行動を制限する権利は私たちにはない。レストランに乱入しそうな沖田くんの服を必死で引っ張り、止めた。

「どうして止めるの」

「もう帰ろう。私たちが土方さんの行動にあれこれ言う権利はないんだから」

「でも」

「土方さん、現代で寂しい思いをしているんだよ。女の人にぬくもりを求めたくなっても、仕方ないんじゃないかな」

 言いながら傷ついている自分がいた。私では、土方さんの心の隙間を埋めることができないんだ……。

 私は一緒に働いて、ご飯を食べる仲間。それ以上でも以下でもない。

「……わかった。美晴がそう言うなら帰る。でも、本当にいいの?」

 沖田くんは私をにらむように見つめる。

「私はいいよ。沖田くんが気にするなら、私のいないところでハッキリさせて」

 ぼそぼそと言うと、憐れむようだった沖田くんの目が、微かに攻撃的な光を帯びた。

「美晴の臆病者。美晴だって本当は、あの人が誰か気になって仕方ないくせに」

 言い捨て、沖田くんは踵を返して寮の方に歩いていく。

 彼をひとりで返したら、寮長に言い訳ができなくなる。

 私は無言で、走るようにして早足の沖田くんを追いかけた。すぐに呼吸が苦しくなって、涙が溢れてきた。

 土方さんが隠れて女性と会っていたこと、沖田くんに臆病者と言われたことが、二重に私の心を締め付けていた。