土方さんは、夜の街をひとりで歩いていく。スマホを片手で持っているのは、地図アプリを使っているからだろう。
「いつの間にか使いこなしている。さすが土方さんだ」
電柱の陰に隠れて言う沖田くん。感動している場合じゃない。私の心は、勝手に寮を抜け出したことに対する罪悪感でいっぱいだった。
「私、やっぱり帰る。土方さんがなにをやっていようと、私には関係ないもの」
最初に面倒を見ただけの私に、土方さんがなにもかもを報告する義務などない。
「そんなこと言って……あっ」
沖田くんが、自分の口を手で塞いだ。彼の視線の先には、一件のカフェが。夜はレストランとして営業しているらしい。
その入口の前で、女性が待っていた。遠すぎるし暗くて、よく見えない。けど、風に揺れる長い髪とスカートから察するに、ほぼ女性で間違いない。
土方さんは真っ直ぐにその女性に近づいた。ひとことふたこと交わしたようだ。そのまま連れ添って店に入っていった。
「マジか……」
沖田くんも私も、目を見開いて固まった。
「ただの友達ってことはないかな?」
「それなら、堂々と休みのときに会いに行くんじゃ……。こそこそ夜中に出かけるってことは」