その機会は、思ったより早く訪れた。
夕食後に土方さんを訪ねようとした沖田くんが断られたという。食堂で声をかけたらしいけど、私は作業中で知らなかった。
沖田くんに連れられ、職員用出入り口が見える倉庫の陰に身を潜める。辺りはすっかり暗くなっていた。
ここでしばらく待ってなにもなければいいけど……。しかし沖田くんのカンはなにかがあると感じているようだ。
「今日のお風呂当番は?」
「寮長だけど」
「よし。土方さんが出てきたら、行くよ。ついてきて」
私は一瞬迷った。仕事を終えた土方さんが夜中に出ていくのは自由だ。しかし沖田くんに門限を破らせるわけにはいかない。
「なに迷ってるの、美晴。僕、急にお腹が痛くなったから病院に連れて行って」
「へ?」
「っていう体で出ていけばいいんだよ。急いでいて報告が遅れた、夜間診療所に着く前に体調がよくなった、で済むじゃない」
「ええ~っ」
それって、嘘を吐いて寮長を騙すってことじゃない。沖田くん、かわいい顔してとんでもないことを言いだす恐ろしい子だ。
「あっ、土方さんが出てきた」
「うそっ」
倉庫の陰から目をこらすと、たしかに職員用出入り口から土方さんが出てきたところだった。
私はすでに衝撃を受けていた。足が固まったように動かなくなる。銅像と化した私の手を、沖田くんがぐいと引っ張った。
「美晴、動いて! 美晴が来ないと、僕だけ怒られるだろ!」
「ひ、ひえ~ん」
行きたくない。土方さんのデート現場なんて見たくない。完全に弱腰になった私は、ほぼ沖田くんに引きずられるようにして外に出た。