「ち、ちがっ」
「美晴には、平凡な年下がいいんじゃない? 土方さんはいつか幕末に帰っちゃうかもしれないし」
沖田くんの言葉に、スッと心が冷却されたのを感じた。
「やっぱり付き合うなら、現代人同士の方が……」
私たちが話している横を、寮生が通りすぎていく。
「おい沖田、美晴をいじめてんのか。好きだからっていじめんなよ」
加瀬くんが意地悪な声で言ってきた。まるで小学生だ。私、いじめられたような顔をしていたのかな。
「いじめてません。アドバイスしただけですよ」
沖田くんはスマホをポケットにしまい、誰にでも好かれそうな笑顔を浮かべた。加瀬くんはつまらなさそうに舌打ちをし、背を向けた。
「今土方さんに彼女がいるとしたら大問題だ。現代に留まる理由ができてしまう」
笑顔を消し、眉間にしわを寄せた沖田くんが呻くように呟く。
「局長は近藤さんだけど、実際に隊を切り盛りしていたのは土方さんだ。土方さんがいないと、新選組はあっという間に瓦解してしまう。組のためには早く幕末に戻った方がいい」
「あ……」
そうだ。幕末ではきっと、新選組のみんなが土方さんの帰りを待ち望んでいる。沖田くんは新選組のために、土方さんに幕末に帰ってほしいみたい。
「そんな泣きそうな顔しないで。仕方ない、僕が土方さんを見張っているよ。次にひとりで外に出るようだったら、そのときは」
沖田くんが背を屈め、私の耳に一瞬だけ囁いた。
「一緒に、あとをつけよう」
すっと背を伸ばした沖田くん。彼はもう、寮生に見せる人懐こい表情を浮かべていた。私は黙り、小さく頷いた。