寮長のセリフが、途中から聞こえなくなった。
まさか、もうひとりきりで出歩けるようになっていたなんて。しかも、しっかり女性と知り合いになっていたとは。
証拠もないし決まったわけじゃないけど、幕末一のモテ男だもんね。
自分の魅力をよくわかっていて、自信もありそう。彼が少し強引でも、女性はなんとなく惹かれてしまうだろう。
新選組という生きがいを失った今、彼のようなひとが、地味な寮母の仕事だけで満足できるわけはなかったんだ。
「あれ? 美晴ちゃん? ねえ、おーい」
私は寮長に応対する気力も失い、洗濯カゴを抱えてふらふらと廊下を戻っていく。
私、どうしちゃったんだろう。土方さんは私の彼氏じゃない。なのに、ひどい裏切りを受けたようなショックを感じている。
胸が痛い。頭も痛い。息苦しい。まるで、水から出された金魚になった気分。
土方さん、いったいどこの誰といつ知りあったのよ。
悶々とした思いを抱えて部屋に戻った。隣の部屋に土方さんがいるのかどうかは、わからなかった。