もともとこの部屋も住み込みの職員用だったが、今は空き部屋になっている。

 今、この寮で住み込みで働いているのは、寮長と寮母である私だけ。あとはふたりの正職員と、短時間勤務のパートさんが通ってきている。

 眠っているコスプレさんをちらっと見た。熱はあるけど、そんなに苦しそうじゃない。明日病院に行けば大丈夫だろう。

 私は部屋を出ていこうとして、つまずいた。つま先にコスプレ刀の鞘が当たったのだ。

「おっとっと。隅に寄せておこう……」

 片手で持ち上げようとしたら、思わぬ重量感でびっくりする。ずっしりと重く、床から持ち上げるのがやっとだった。

 脇差と二本合わせたら、両手でやっと抱えることができるくらいの重さだ。偽物だとしても、これを振り回されたりしたら、さすがに危ない。

 まだ相手の正体がわからないので、武器になりそうな刀はこちらで預かっておいた方がいいかもしれない。まさか本物であるはずはないけど、長くて固くて重い時点で危ない。叩かれたら痛いし血が出る。最悪死ぬ。

「寮生にも知られないようにしなくちゃ」

 ここの寮生は、やんちゃな子が多い。頭に血が昇ったときにこんなものがあったら、絶対に振り回す。知られないに越したことはない。

 私は寮長の許可を得て、刀と脇差を、職員室の鍵がかかるロッカーにしまいこんだ。