「ま、ま、待ってください!」

「きみは……アランスタイン子爵令嬢」

「なっ、にをしているんだ! イース!」

「イース様……どうして……!」


 どうしよう、何も考えずに飛び出してきてしまったけどフレデリカ様が一番驚いている。ああほらもう泣いてるじゃん!

 十六そこいらの女の子がこんな衆人環視の中で大きな声で悪者めとか言われたら泣いちゃうに決まってるじゃないですか。

 でも不敬罪とかは怖いから小市民は王太子をにらみつけたりできません。ジーク様がめちゃくちゃ慌てたような顔をしているのだけが救いだ。

 よかったちゃんと人間っぽい。魅了の魔法みたいなファンタジー設定だと話通じないロボットみたいになっちゃうもんね。

 フレデリカ様に私の、といってもフレデリカ様のより幾分くたくたのハンカチを渡して後ろにかばう。王太子たちは怪訝な顔をした。


「あ、あの! フレデリカ様がなにかしたのでしょうか!」

「なにかもなにも、彼女はここにいるリリンに嫌がらせをした。その罪をここで」

「その証拠とかあるんでしょうか! あったとしてそれはこんな大勢いるところで見せしめるほどですか!? 三大公爵家が全員汚職しててもさすがにこれはないかと思いますけど!」


 一応、王国法の中に被疑者を守る法律だって存在する。

 それはあくまでも被疑……つまり容疑の域を出ていないからだ。

 きちんとした王国の警察組織による調査と、正当な王前裁判を経て初めて衆人の前での糾弾が許される。なのにこれはあんまりだ。

 しかもいじめって! フレデリカ様がそんなちゃちいことするもんか。