「すまない、出遅れた。イース、無事だったか」

「はあ、あの、なにやら差し出がましいことをしましたようで……」

「そんなことはない。予定とは少々違ったが結果オーライだ。フレデリカ嬢も君のおかげで傷は浅いかもしれない」


 詳しいことはあとで話すから、と彼が言うので頷く。

 とりあえずもう考えるのはやめておこう。あの子が何だったのか、彼らが何をしようとしていたのか、大人たちが何をしていたのか、それも本来はここでわかるはずだったんだろうからどうせ後で知らせが回るだろう。

 とにかく生きててよかった。死にそうだった。

 つい小市民気質で動いてしまったけれど、令嬢としてはまったくもって最悪の立ち居振る舞いだったので勘当されるのも視野に入れなくてはならなさそうだ。これは婚約も解消かな…。


「イース、今日の君は実に公正で勇敢だった」

「そんな、ただ、泣いてほしくなかったんです。同級生の女の子に」

「公爵令嬢を、義務ではなく優しさから助けようとした君の行動は素晴らしかった。貴族として誇るべき行いだ」


 そうですわ、ご立派だったわ、とあちこちから声が飛ぶ。

 思い出したら恥ずかしくて死にそうではあるけど、周囲の評価がいいのであればまあ、いいか。

 少なくとも私に引きずられてジーク様が悪評にさらされる心配はなさそうだ。