「あれ? テキトーじゃん?」

 僕が方月さんのために、オリジナルブレンドその2を作ってる最中、横から声をかけられた。え? その呼び方って……

「何してんのこんな所で」
「お前の高校この辺じゃね―だろ?」

 同年代の私服姿たち。このあたりで私服校といったら一箇所しかない。みんな知ってる顔だった。

「あ、ああ……久しぶり……」

 僕は顔を伏せてそそくさとドリンクバーコーナーから離脱する。


「おまたせ」
「滝藤くん? どうしたの?」
「え、何が?」
「ううん、なんか様子が……」
「うわっ!? テキトー野郎のくせして可愛い子連れてんじゃん!」

 大きめの声が、方月さんの言葉をかき消す。ああ……。

「知り合い?」

 方月さんが小声で僕に尋ねてくる。アイツはそれを聞き逃さない。

「そうそう! 俺たち地元同じでさ。一緒の塾通ってた仲なの! よろしく!!」
「その制服……君テキトーと同じ高校の子かぁ」
「めっちゃかわいくね? なんでこんなテキトー野郎と一緒にいんの?」

 失態だ。なんでこの店選んだんだ……? 学校から離れたファミレスと言ってとっさに出てきたのがここだった。なんでここが思い浮かんだのか考えもしなかった。そうだ、僕はこいつらと一緒にこの店に入ったんだ。三年前の、志望校見学会の時に……。

「ねえねえ」

 一人が方月さんに顔を近づける。やめろ。

「もうさ、ヤっちゃったのコイツと」

 目の前が暗くなる。首より上から血の気が引いていくのが自分でもわかった。

「出よう、方月さん」

 僕は方月さんに促す。

「うはっ『ホウツキさん』って、ソレ名字呼び? まだ付き合ってるわけじゃないんだ?」
「はいはーい! じゃあオレ、彼氏に立候補しまーす!」

 一挙手一投足を見逃さず、僕の全てに絡んでやる、そんな魂胆が見え見えだった。

「…………」

 方月さんも黙って席を立つ。僕は伝票を掴み、奴らを押しのけるようにしてレジへと向かった。

「あれ? もう行っちゃうの?」
「ホウツキちゃーん、ラインこうかんしよーよ!」

 背後から執拗に絡みついてくる声。やめろ。この人にそんな言葉かけるんじゃない……!!

「オイ、テキトー!!」

 その中の一つは、異常なまでにトゲついた。低い声だった。

「お前、情けなくねーのかよ? 女の前でこんだけ言われてよ!? ほんとどうしようもねえテキトー野郎だな?」

 …………僕はそんな声も無視して、テーブルを後にした。方月さんも後に続く。けど、その顔を見ることは出来なかった。