その日以来、生徒会がない日の私の門限は2時間早まった。授業が終わったらまっすぐ帰らないと間に合わない時間だ。これまでだって、寄り道なんてほとんどすることなく帰ってきていたから、時間が奪われたわけではない。けど……精神的な圧迫感はこれまでと比べ物にならなくらい強くなったし、何より毎週水曜日の堕落部活動は二度とできなくなってしまった。

 スマホも取り上げられた。パパやママと最低限のやり取りが出来るだけのおもちゃみたいな携帯電話を持たされた。ママは定期的に私の様子を見に部屋に来る。まるで刑務所みたいな毎日が始まった。
 滝藤くんとは全く連絡が取れない。スマホはないし、学校で会いに行く勇気も出なかった。あの時、ママに見つかる直前、何かを言いかけていた気がした。せめてそれを確認したいとも思ったけど……行動に移せずしまいだった。

 やることは最早、勉強しかなかった。学校に居続けるためには、学年トップが絶対条件。だからやるしか無い。
 けど本当にそれでいいの? "堕落"の蜜の味を知ってしまった私はどこかで、抵抗する気持ちを持っていた。これでパパとママの言いなりになって、学年トップになっても、それは二人の主張が正しいと証明するだけじゃないか? 滝藤くんとの日々や"堕落"の素晴らしさを否定するだけじゃないか?

 やるしか無いことはわかっている。けど、やりたくないという気持ちが大きくなりすぎて、潰されそうだった。勉強は決して嫌いではない。むしろ、知らないことを知れるのは楽しいとすら思っていた。けど、このひと月は……ただただ苦痛でしかなかった。


 そして迎えた期末試験。私は感情を殺し、ただただ問題を解くことに没頭した。するしかなかった。
 終了後はいつもどおり自己採点、数学と物理、化学、地理はたぶん満点だ。それ以外の教科も1~2問落とした程度。論述問題のある現国がどうなるかわからないけど、それでも全教科の平均点は95点以上になると思う。
 多分、トップには戻れた。それで良いわけがない。それはわかっていたけど、少なくとも最低限のことはやれたはずだ。


 翌週には、成績が発表された。うちの学校はWebで結果を確認することが出来る。特に成績上位者は名前と順位が全校生徒にわかるようになっていた。パパとママが後ろから覗き込む中、私は結果発表ページをクリックした。

「あ……」

 目の前が暗くなった。方月まひろの名前は一番上にはなかった。自分の名前のある位置を示す黄色いバーは、一覧の上から2番目に表示されていた。

「残念だよ、まひろ……」

 パパが心底ガッカリしたようにため息をつく。そんな、やれることはやったはずなのに……。終わった。何もかもが。パパは片手に、女子校のパンフレットを握っていた、すぐにでも編入手続きを進めるつもりなのだろう。

 ごめん、滝藤くん。私、ダメだった……。

 絶望的な思いでもう一度、結果一覧を見る。何度見てもバーの表示は2番めだ。1番目は……

「え、うそ……?」

 一瞬、目を疑った。けど底に出ている名前を私が間違えるはずがなかった。

1位 滝藤一途  合計:1163 現文: 92 古文:96 数学A:100 数学B:100 英語Ⅰ:98 英語Ⅱ:99 日本史A: 93 地理:100 物理:100 化学:100 美術:90 音楽:95
1位 方月まひろ 合計:1163 現文:100 古文:97 数学A:100 数学B:100 英語Ⅰ:93 英語Ⅱ:99 日本史A:100 地理:100 物理: 95 化学: 96 美術:89 音楽:94