すごい……来て本当に良かった!
僕はスクリーンを見ながら、何度もそう思った。横に座る方月さんも同じだろう。
リマスターされているとはいえ、古臭さの残るフォルムの質感に最初は抵抗があった。小さな画面だとそこまで気にならなかったけど、大画面だとアラが見えてしまいそうな、そんな事を最初は思った。
けど、すぐに気にならなくなった。CGのない時代のSFXは今観ても十分迫力があるものだったし、先を知ってるストーリーではあっても主人公がピンチに陥るとハラハラした。
「映画は劇場で観ないと意味がない」よく、そう語る人がいる。ベッドに寝そべりながらサブスクで観る習慣がついていた僕は、そんな言葉に反感を覚えたりもした。けど今、実際に体験してみると、そんな人たちの気持ちが少しだけわかる気がした。
「最高だったね!!」
劇場を出た後も方月さんは興奮を隠せないでいた。ぴょんぴょんと今にも跳ね出しそうに、軽やかなステップで隣を歩いている。彼女は動きやすそうなパンツルックで、ブラウスとジャケットの上からコートを羽織っている。初めて見る方月さんの私服姿だった。当然僕も。制服で街なかを歩くのは流石にマズイと思い、事前に準備を進めていたのだ。
実は僕に限って言えば、学校をサボるのはこれが初めてじゃない。持ち前のテキトー野郎のクズ精神で、何度か嫌な授業のある日をエスケープしたことがある。最初は、親に連絡がいかないかなど変な心配をしたものだが、高校生にもなると担任もいちいちそこまで心配はしない。だから、教室にいないことで即怪しまれる心配はないと思っていた。
それよりも問題は服装だった。街を制服姿で歩けない。でも家を出るときは制服でなくてはならない。そこで僕たちは、事前に何回かに分けて当日着る洋服を駅のコインロッカーに運び込んでいた。そして朝、駅のトイレで着替え、制服をロッカーにしまう。こうして、私服姿になった僕たちは意気揚々と映画館へ向かったのだ。
「改めて実感した。やっぱり私、あの時代の映画大好きなんだって! もっといろいろな作品みたいよ」
「わかった。僕もちょっとハマりそうだから、面白そうなのピックアップしておくよ!」
僕たちは昼食を取るために、デパートの最上階にあるレストランに入った。街を一望できる大きな窓の席で、さっき体験した衝撃と、これからの部の方針について語っていた。
「それにしても……私、本当に滝藤くんに会えてよかった。ありがとう」
ランチが終わり、食後のコーヒーが運ばれてきた所で方月さんはそんな事を言った。
「そんな。僕なんか何もしてないよ?」
「ううん、いっぱいしてくれたって! それでさ……」
珍しく彼女の目が泳いだ。確か、堕落部を始める直前にもこんな顔をしていた気がするけど……。方月さんはしばらく、もごもごと口の中で何かをいいかけて早めを繰り返し、やがて意を決したように自分のバッグを開けた。
「はい、これ!」
「え?」
テーブルの上に、小さな箱が置かれた。きれいな包装紙でくるまれ、その上からリボンが結ばれている。
「その……バレンタイン。マンガやライトノベルのヒロインみたいに手づくりってわけには行かなかったけど……」
最初何いってるか理解できなかった。そういえば今日は2月の第2週……14日には一大イベントがあった事を思いだす。
「あ、ありがとう……」
実感がわかなかった。バレンタインデーなんて、今まで全く縁がなかったイベントだ。昔から憧れは強く持っていたけど、いざ渡されると驚いていいのか、喜んでいいのか、感動すればいいのか、よくわからない。キツネにつままれたような気持ちだ。
「それとさ……その、ごめんなさい」
続いて彼女は頭を下げてきた。ますます僕の頭は混乱する。なんで、なんでこのタイミングで謝られてるんだ、僕は?
「去年の試験勉強したあの日、私ひどいこと言っちゃったよね?」
試験勉強? ……まさかあの日のことか!?
「そんな! アレは僕のほうが悪かったって!」
「ううん。そんな事無い。私、確かに滝藤くんの気持ち、考えてなかったもん。それで上から目線でもっと頑張れなんて……」
あっ! 僕は息を呑む。方月さんは涙を流していた。これまで何度か瞳が潤む様子は見てきたけど……ハッキリと流しているのを見るのは初めてだった。
僕はスクリーンを見ながら、何度もそう思った。横に座る方月さんも同じだろう。
リマスターされているとはいえ、古臭さの残るフォルムの質感に最初は抵抗があった。小さな画面だとそこまで気にならなかったけど、大画面だとアラが見えてしまいそうな、そんな事を最初は思った。
けど、すぐに気にならなくなった。CGのない時代のSFXは今観ても十分迫力があるものだったし、先を知ってるストーリーではあっても主人公がピンチに陥るとハラハラした。
「映画は劇場で観ないと意味がない」よく、そう語る人がいる。ベッドに寝そべりながらサブスクで観る習慣がついていた僕は、そんな言葉に反感を覚えたりもした。けど今、実際に体験してみると、そんな人たちの気持ちが少しだけわかる気がした。
「最高だったね!!」
劇場を出た後も方月さんは興奮を隠せないでいた。ぴょんぴょんと今にも跳ね出しそうに、軽やかなステップで隣を歩いている。彼女は動きやすそうなパンツルックで、ブラウスとジャケットの上からコートを羽織っている。初めて見る方月さんの私服姿だった。当然僕も。制服で街なかを歩くのは流石にマズイと思い、事前に準備を進めていたのだ。
実は僕に限って言えば、学校をサボるのはこれが初めてじゃない。持ち前のテキトー野郎のクズ精神で、何度か嫌な授業のある日をエスケープしたことがある。最初は、親に連絡がいかないかなど変な心配をしたものだが、高校生にもなると担任もいちいちそこまで心配はしない。だから、教室にいないことで即怪しまれる心配はないと思っていた。
それよりも問題は服装だった。街を制服姿で歩けない。でも家を出るときは制服でなくてはならない。そこで僕たちは、事前に何回かに分けて当日着る洋服を駅のコインロッカーに運び込んでいた。そして朝、駅のトイレで着替え、制服をロッカーにしまう。こうして、私服姿になった僕たちは意気揚々と映画館へ向かったのだ。
「改めて実感した。やっぱり私、あの時代の映画大好きなんだって! もっといろいろな作品みたいよ」
「わかった。僕もちょっとハマりそうだから、面白そうなのピックアップしておくよ!」
僕たちは昼食を取るために、デパートの最上階にあるレストランに入った。街を一望できる大きな窓の席で、さっき体験した衝撃と、これからの部の方針について語っていた。
「それにしても……私、本当に滝藤くんに会えてよかった。ありがとう」
ランチが終わり、食後のコーヒーが運ばれてきた所で方月さんはそんな事を言った。
「そんな。僕なんか何もしてないよ?」
「ううん、いっぱいしてくれたって! それでさ……」
珍しく彼女の目が泳いだ。確か、堕落部を始める直前にもこんな顔をしていた気がするけど……。方月さんはしばらく、もごもごと口の中で何かをいいかけて早めを繰り返し、やがて意を決したように自分のバッグを開けた。
「はい、これ!」
「え?」
テーブルの上に、小さな箱が置かれた。きれいな包装紙でくるまれ、その上からリボンが結ばれている。
「その……バレンタイン。マンガやライトノベルのヒロインみたいに手づくりってわけには行かなかったけど……」
最初何いってるか理解できなかった。そういえば今日は2月の第2週……14日には一大イベントがあった事を思いだす。
「あ、ありがとう……」
実感がわかなかった。バレンタインデーなんて、今まで全く縁がなかったイベントだ。昔から憧れは強く持っていたけど、いざ渡されると驚いていいのか、喜んでいいのか、感動すればいいのか、よくわからない。キツネにつままれたような気持ちだ。
「それとさ……その、ごめんなさい」
続いて彼女は頭を下げてきた。ますます僕の頭は混乱する。なんで、なんでこのタイミングで謝られてるんだ、僕は?
「去年の試験勉強したあの日、私ひどいこと言っちゃったよね?」
試験勉強? ……まさかあの日のことか!?
「そんな! アレは僕のほうが悪かったって!」
「ううん。そんな事無い。私、確かに滝藤くんの気持ち、考えてなかったもん。それで上から目線でもっと頑張れなんて……」
あっ! 僕は息を呑む。方月さんは涙を流していた。これまで何度か瞳が潤む様子は見てきたけど……ハッキリと流しているのを見るのは初めてだった。