そして三学期最初の水曜日。僕は放課後、生徒会室に入っていった。
「それじゃあ、今年も活動よろしくお願いします」
「うん、よろしく。……それで相談って?」
「これを見て」
方月さんはスマホの画面を僕に見せてきた。都心の映画館のホームページだった。
「リバイバル上映……これって!?」
去年、そこに簡易ソファを作って一緒に見た、80年代のハリウッド映画のタイトルがデカデカと表示されていた。2月の中旬、1週間限定の公開らしい。
「カップ麺食べながらラジオ聴いてたの。そうしたら偶然、この映画をやるって宣伝してて」
「すごい! 行こうよ!!」
この時代の映画を劇場で観られるなんて思ってもなかった。リバイバル上映、そんなものがあるんだ。古い映画はサブスクで観るものと思い込んでたから、僕も興奮気味になっていた。
「でもさ、よく調べてみたら……平日の午前中しかやってないみたいなんだよね」
「え?」
「ほら、ここ見て。『平日名画座』って書いてあるでしょ? この映画館の恒例企画らしいんだ。平日の午前中に、一週間限定で名作を上映するっていう……」
「なるほど……」
そういう事か。何となく映画館の目論見がわかる気がした。平日の午前中。多分そこは、もっとも映画館に来る人が少ない時間帯だ。だからわざわざ土曜日夕方でも観られるるような作品を上映してもあまり意味がない。そこで今ではスクリーンでなかなか見ることが出来ない、往年の名作と呼ばれるような映画を上映する。そうすればガチの映画好きがやってくるというわけだ。多分そういう人たちは、仕事を休んででも観たいと思うんだろう。
「そっかぁ、それだとちょっときついなぁ……」
「でもさ、こんなチャンス逃したくないじゃない?」
「え?」
「私、滝藤くんに勧められるまで、この時代の映画なんて観る気も起きなかった。でも観てみたら実感したの、なんでもっと早く触れなかったんだろうって、時間をムダにしちゃったって」
ちょっとまて。方月さんは何を言おうとしてるんだ!?
「だから私、このチャンスはムダにしたくない!」
「それってつまり……」
「2月の第2水曜日。堕落部の校外活動パート2……どうかな?」
「どうかなって……」
僕は思わず頭に手を当てて考えた。学校をサボって名画を観に行く。なるほど、それはすごい"堕落"だ。いままでの活動とは比較にならない。しかもそれは、方月さんが嫌っているような、本当にダメな堕落でも無い気がする。ここに行けば、何かを得られる。そんな予感が確かにあった。
けど……本当にいいのか? 一線を大きく踏み外している、そんな気もした。何のために毎週水曜に活動を限定したのか? それは歯止めの効かない堕落の連鎖から方月さんを守るためであり、露悪的な言い方をすれば僕が責任から逃れるためだ。学校をサボることによってそんな一線を越えることにはならないか?
「私は部長が……滝藤くんがダメだって言うなら諦めるから」
そう言う方月さんの眼差しは真剣だった。黒く大きな瞳がまっすぐ僕の目を見つめてくる。完璧超人だけど、どこか普通の高校生とはかけ離れていて、それを密かに気に病んでいた女の子。変に真面目で、だらけることにすら真っ直ぐひたむきに取り組む子。そんな子が、初めて見つけたかもしれない自分の意志で進む道。数ヶ月間、その様子を直ぐ側で見ていたのは僕だ。その思いを叶えたくないはずがない。
「わかった。行こう」
僕はゆっくりとうなずく。とたんに、ぱぁっと彼女の表情が明るくなった。花が咲いた。僕はとっさにそんな事を思った。
「ありがとう滝藤くん!」
「そうときまれば、計画を練ろう。親にも先生にもバレないように、入念な計画を」
「うん!」
「それじゃあ、今年も活動よろしくお願いします」
「うん、よろしく。……それで相談って?」
「これを見て」
方月さんはスマホの画面を僕に見せてきた。都心の映画館のホームページだった。
「リバイバル上映……これって!?」
去年、そこに簡易ソファを作って一緒に見た、80年代のハリウッド映画のタイトルがデカデカと表示されていた。2月の中旬、1週間限定の公開らしい。
「カップ麺食べながらラジオ聴いてたの。そうしたら偶然、この映画をやるって宣伝してて」
「すごい! 行こうよ!!」
この時代の映画を劇場で観られるなんて思ってもなかった。リバイバル上映、そんなものがあるんだ。古い映画はサブスクで観るものと思い込んでたから、僕も興奮気味になっていた。
「でもさ、よく調べてみたら……平日の午前中しかやってないみたいなんだよね」
「え?」
「ほら、ここ見て。『平日名画座』って書いてあるでしょ? この映画館の恒例企画らしいんだ。平日の午前中に、一週間限定で名作を上映するっていう……」
「なるほど……」
そういう事か。何となく映画館の目論見がわかる気がした。平日の午前中。多分そこは、もっとも映画館に来る人が少ない時間帯だ。だからわざわざ土曜日夕方でも観られるるような作品を上映してもあまり意味がない。そこで今ではスクリーンでなかなか見ることが出来ない、往年の名作と呼ばれるような映画を上映する。そうすればガチの映画好きがやってくるというわけだ。多分そういう人たちは、仕事を休んででも観たいと思うんだろう。
「そっかぁ、それだとちょっときついなぁ……」
「でもさ、こんなチャンス逃したくないじゃない?」
「え?」
「私、滝藤くんに勧められるまで、この時代の映画なんて観る気も起きなかった。でも観てみたら実感したの、なんでもっと早く触れなかったんだろうって、時間をムダにしちゃったって」
ちょっとまて。方月さんは何を言おうとしてるんだ!?
「だから私、このチャンスはムダにしたくない!」
「それってつまり……」
「2月の第2水曜日。堕落部の校外活動パート2……どうかな?」
「どうかなって……」
僕は思わず頭に手を当てて考えた。学校をサボって名画を観に行く。なるほど、それはすごい"堕落"だ。いままでの活動とは比較にならない。しかもそれは、方月さんが嫌っているような、本当にダメな堕落でも無い気がする。ここに行けば、何かを得られる。そんな予感が確かにあった。
けど……本当にいいのか? 一線を大きく踏み外している、そんな気もした。何のために毎週水曜に活動を限定したのか? それは歯止めの効かない堕落の連鎖から方月さんを守るためであり、露悪的な言い方をすれば僕が責任から逃れるためだ。学校をサボることによってそんな一線を越えることにはならないか?
「私は部長が……滝藤くんがダメだって言うなら諦めるから」
そう言う方月さんの眼差しは真剣だった。黒く大きな瞳がまっすぐ僕の目を見つめてくる。完璧超人だけど、どこか普通の高校生とはかけ離れていて、それを密かに気に病んでいた女の子。変に真面目で、だらけることにすら真っ直ぐひたむきに取り組む子。そんな子が、初めて見つけたかもしれない自分の意志で進む道。数ヶ月間、その様子を直ぐ側で見ていたのは僕だ。その思いを叶えたくないはずがない。
「わかった。行こう」
僕はゆっくりとうなずく。とたんに、ぱぁっと彼女の表情が明るくなった。花が咲いた。僕はとっさにそんな事を思った。
「ありがとう滝藤くん!」
「そうときまれば、計画を練ろう。親にも先生にもバレないように、入念な計画を」
「うん!」