「これと言ってお金持ちという共通点しか見つけられないですね」
瀬戸の指摘通り共通点が思っていたよりも少ない。
死因は一件目と三件目が刺殺、二件目が絞殺、四件目が撲殺。
金目のものが共通して奪われ、中でも一番高価なものは二件目の被害者が自宅に置いていた宝石だった。
世界的にも珍しく、貴重な宝石らしい。
「宝石って何て名前だっけ?」
「マスグラバイトって宝石です。世界的にも希少で、滅多に出回らないそうですよ」
「ふーん。もしかして、浅川の実家にあったりして」
赤星と瀬戸の言葉で、その場にいる者たちの視線が一颯に集まる。
一颯の実家は代々政治家の家系だ。
希少で、滅多に出回らない宝石がそう簡単に身近にあるわけがないのだ。
そう思って、赤星が「いや、冗談だ」と言おうと口を開こうとした、その時。
「ありますね。確か、祖母が昔海外旅行に行った時に何処だかの国王だか王女だか誰かだからか貰ったって言ってました。今は祖母が趣味で作ったぬいぐるみの鼻になってます」
あっさりと答えた一颯に、「は!?」と四人の声が重なる。
普段ボンボンを弄りまくっている汐里でさえも、さすがに驚いていた。
何故国賓級の相手から貰ったモノをぬいぐるみの鼻に使ってしまうのだろうか。
ましては世界的にも希少な宝石を。
「希少な宝石をぬいぐるみの鼻に?」
「はい。祖母が言うにはくれた相手が着物や扇子を羨ましがったらしく、それらをプレゼントしたらその宝石が貰えたらしいです」
「ちなみに着物は?」
「東雲家が贔屓にしている京友禅の職人がオーダーメイドで作ったものです」
再びあっさりと答えた一颯に、今度は四人のため息が重なる。
東雲家の交遊関係にも驚きだが、国賓級の相手とのやり取りを普通に言ってのける一颯のメンタルにも驚きだった。
それはもうドン引きレベルで。
汐里達は普通に庶民らしい生活をしている一颯が、本当は国賓級の要人と渡り合えるほどのボンボンであることを改めて感じていた。
「東雲家怖いんだけど」
「ボンボンが……」
「浅川さん、何で刑事なんかやってるんですか?東雲継いだ方が安泰じゃないですか」
「何かっていうな、瀬戸」
上から赤星、汐里、瀬戸、椎名の順だ。
一颯にとって当たり前だったことは当たり前ではないことは彼自身も分かっている。
それでも、ついつい出てしまう実家のエピソードは一般人とは異なるのだと実感させられた。
だが、一颯が無自覚にお金持ちアピールをしていても誰も嫌みとして取らない。
それは一颯の誠実な人柄のお陰だろう。