「ありがとうございます……」
手を差し伸べたことの礼なのか、助けにきたことへの礼なのかは分からない。
それでも、瀬戸がこうして一颯に礼を言ったり、素直になっているのを見たのは初めてかもしれない。
存外、瀬戸司という男は不器用なだけなのかもしれない。
一颯は瀬戸の頭をワシワシと撫で、「無事で何よりだ」と笑う。
「ホントズルいよねー」
ふと、色島の間延びした不満そうな声がした。
声がした先には手首に手錠を付けられ、公安の氷室とその相棒に左右を挟まれた色島がいた。
本来ならば、一颯達捜査一課の手柄になるはずだったのだが、色島の居場所を氷室に聞いた際に交換条件を出されていたせいで、その手柄は公安のものになった。
「捜一と公安が協力とかズルいー。普通、交わらないんじゃないの?公僕と国の番犬はさー」
「利害は一致してるからな。捜一も公安もお前達《七つの大罪》を追っている、時と場合よっては協力するさ」
その交換条件は『色島の居場所を教える代わりに、手柄は公安のものに』というもので、一颯と汐里は手柄よりも後輩の命を選んだのだった。
それを知った瀬戸は何とも言えない感覚になった。
あれだけ自分勝手に振る舞っていたというのに、二人の先輩は逮捕よりも自分の身を案じてくれた。
「聴取の結果はこっちにも回してくれ。捜一も他人事ではないんでね」
汐里の言葉に氷室を手を上げて答えると、色島を連れて車に乗り込もうとした。
その直後、突然パァンという拳銃の音がして、色島の身体が前に傾いた。
氷室が色島の身体を支えるが、色島の眉間には弾痕が出来ていた。
「な、んで……」
色島は目を見開き驚いた顔でそう呟くと、目を開けたまま絶命する。
汐里は氷室達の方へ駆け寄り、一颯は辺りを見渡す。
身体が傾いた方向と頭を撃ち抜かれた方向を考えれば、後方から狙撃されたことが分かる。
辺りを見渡していた一颯は見つけた。
少し先にある登り坂のカーブのところにいる男の姿を。
「神室……志童……」
「浅川さん?何処を見て……あそこにいるのは……」
瀬戸が一颯と並んで男の、神室志童のいる場所を見た。
神室は二年前に会ったときと変わらず、不気味な仮面を着けていた。
ガードレールで見えないが、神室の手にはライフルが握られているように見える。
つまり、色島を狙撃したのは神室だ。
「クソ!手掛かりが……!」
汐里の悔しそうな声がする。
恐らく、色島は用済みとして神室に殺されたのだろう。
神室にとって、人は駒だ。
『人は人を憎み、恨み、蔑む。だから、人を殺す』
そんな思考を持ち、その思考で負の感情に負けそうな人を唆して罪を犯させる。