それから数日後。
一颯は汐里と共に秘密裏に逮捕され、公安に勾留されている太志の元に来ていた。
戸籍上も警察官としても死んだ人間になっている太志。
罪を裁くべきなのに、太志は隠されている。
それはあまりにも太志が行ったことは警察の信用を落とすには充分すぎる故の判断だった。
「で、何で死んだふりなんかしたの??」
汐里は十年以上の時を経て再会し、向かい側にいる父を睨み付ける。
汐里が覚えている父の面影は残っている。
だが、十年以上という長い月日で父は汐里が年を取っただけ父も年を取った。
シワが増え、白髪が見える。
それでも、父は父だった。
「言っただろう。腐りきった警察に嫌気がさしたって」
「私が聞きたいのはその《腐りきった警察》って何ってこと。確かに警察は権力を傲ってる部分があるけど、全員が全員じゃない。お父さんだって、権力を傲るような人じゃないでしょ?」
「確かにそうだな。だが、警察は腐ってるんだ。それだけは変わらない」
太志は哀しげな顔をして笑った。
一颯は汐里の横で話を聞きながら複雑な気持ちを抱いていた。
かつて、幼い自分を助けてくれた正義の味方は今、正義を見失い、犯罪者となった。
正義と犯罪は紙一重。
太志を見ているとそう思わざる負えない。
「汐里」
「何?」
「正しさとは何だ?罪とは何だ?」
「え、何急に……」
「俺は正しさと罪は終わりのない負のスパイラルだと思ってる」
ふと、一颯と太志の目が合った。
太志は一颯に何か言いたげだったが、何も言わずに微笑むだけだった。
その後、汐里のスマートフォンに呼び出しの電話が入ったことで太志との面会は終了した。
その夜。
太志が拘置所の中で何者かによって殺害された。
防犯カメラの映像は何故か不自然に途切れており、他殺であるにも関わらず何の証拠をなかった。
そして、更には太志だけでなく、太志が協力を仰ぎ、共犯として勾留されていた司馬までもが殺害された。
「お父さんに加えて、叔父さんまで……」
太志と同じく司馬の死には不可解な点がある。
防犯カメラの不具合。
警察内部にあるごく一部の人間しか立ち入れない所にいた。
警備はしっかりしていた。
それなのに、太志と同じく司馬も他殺体で見つかった。