同時刻。
「で、京君のご家族と会ってどうだったんだ?」
官房長官である久寿はSPを担当している篁に問いかけた。
今久寿は自身の執務室にいて、篁は任務を終えて帰ろうとしていた所だった。
昨日、彼女は恋人である京侑吾の家で行われたホームパーティーに参加して、恋人の家族に初めて会った。
「個性的なご家族でしたが、良い方々です。あ、ご子息もパーティーに呼ばれていましたよ」
「一颯が?」
「はい。侑吾さんの妹さん、汐里さんと良い雰囲気になられてましたよ?」
篁は自分のネタで茶化されるのは御免なので、早々に久寿が食いつきそうな話題へと変える。
彼女の読み通り、久寿は息子の恋ばなに見事に食らいついた。
「汐里さんって、一颯の相棒で捜査一課のあのキツそうな目の美人な刑事さんか?」
「はい、捜査一課でも指折りの優秀な刑事です。中身がオッサンなのは頂けないですが……」
「中身がオッサンって若い頃の雅みたいだな。そっかぁ、アイツも気の強いのが好みなのか」
楽しげに笑う久寿に、篁はため息を吐いた。
昨日見た彼の息子は彼に聞いていた通りの神経質そうだが、人が良さそうな青年に見えた。
一見刑事には向かなそうな雰囲気をしていたが、自身が≪東雲一颯≫の本名を呼んだときの目が確かに刑事のそれだった。
「ご子息がこのまま刑事をしていて宜しいのですか?」
「一颯のやりたいようにやれば良いさ。それより、≪あの事≫は伝えてくれたか?」
「ええ。ご協力に感謝している、とのことです」
「まあ、≪協力者≫だからな」
篁は久寿の警護だけでなく、彼とある人物を繋ぐ仲介人のような役割を行っていた。
警視庁のSPをしている彼女だが、侑吾と交際していることでSPの他に役割が増えつつあった。
侑吾は自身が自由に動けない立場のせいか、彼女や部下、協力者を上手く使う。
立ち回りが上手いお陰で警察庁でも信頼は厚いが、それと同時に敵も多い。
「あと、彼に言っておいてくれ。『立ち回りが上手いのは分かるが、敵を増やすな』って。これ以上敵が増えると苦労するのは篁君だからな」
「はい」
篁は久寿の執務室を出ていった。
それを見計らったように、久寿は膝から崩れ落ちた。
背後には一つの影。
篁のいた位置からは完全に死角になっていたが、ずっと執務室には二人以外にももう一人いたのだ。
「――勘が良すぎるのは身を滅ぼすことを覚えておくと良い」
久寿は声の主を分かっていながらも何も出来ずに意識を手放した――。