「君は七つの大罪の怠惰、なの?」






その大罪は怠惰、自ら動くのが面倒で他人に命令していて、誰かに言われてようやく自分で動く。
光生が怠惰ならば、全て合点が行く。
だが、確信はない。
カタツムリのタトゥーはたまたまかもしれないし、光生もアプリの被害者かもしれない。







「……何かも面倒なんだ。説明することも誰かに命令することもされることも。生きることさえ面倒なんだ。……だから、僕は怠惰なんだ」








そんな呟きを漏らしたのは光生だった。
未希は信じたくなかった。
まだ中学生くらいの少年が犯罪組織の一員で、犯罪者であることを。
一番信じたくなかったことは生きることさえ面倒なんだということ。
彼はこの世に未練などないのかもしれない。
それはタトゥー以外に見えてしまった腕に残る傷跡が物語っていた。






「さぁ、僕が怠惰であることが分かった。君達は僕をどうする?」





光生が語りかけているのは未希ではない。
いつの間にか、周りを取り囲んでいる他の客達だ。
皆、光生を睨み付けている。
まるで、親の仇を見つけたかのような眼差しだ。






「僕は君達に何もしない。抵抗することも危害を加えるのも面倒だからね」






「嘘つくな!仲間が傍にいるんだろ!?」





「いないよ。僕は仲間なんて面倒なものいらない。ただ、神室さんだけは信じてたよ」






光生は初めて笑った。
中学生という子供とは思えないほどの大人びた笑みだった。
その笑みに、未希は胸が締め付けられるような気持ちになる。
何がこの子をこんな笑い方をさせるような子供にしてしまったのか。
何がこの子をこんなにも追い詰めたのか。
未希は悔しさで、唇を噛み締めた。






「ほら、抵抗はしないんだから好きなようにしなよ」





「っこの犯罪者が!」





一人の客が光生を近くにあった花瓶で殴ろうと腕を振り上げた。
光生は避けようとしない。
花瓶と言えど強化ガラスで出来た頑丈なもの。
それで殴られたとなれば、ただでは済まない。
未希は反射的に動いていた。






「未希!」





蘭子の叫びと共に未希は頭に鈍痛を感じた。
目の前には驚いたような顔の光生がいる。
額からほおを伝い、生暖かい何かが滴る。
それが血だと気付いたときには頭に激痛が走っていた。