「復元できそうですか?」





一颯は汐里と瀬戸と共に解析チームの所へ来ていた。
≪pigritia ludum≫のアプリは逮捕された三人のスマートフォンから自動的にアンインストールされていて、使っていたという証拠が残っていなかった。
だが、犯人達の証言により、スマートフォンには確かにアプリは入っていた事実がある。
よって、解析チームの手でスマートフォンのデータ復元があの手この手を使って行われていた。





「出来そうで出来ない」





解析チームのリーダーである二階堂はお手上げというようにぐてーんとデスクに伸びていた。
周りの部下達は「行けるか!っ行けないんかい!」「でんでん虫が憎たらしい……」「鈍いなら全て鈍く居ろよ」とご乱心気味だ。
そんな彼らに一颯は持ってきた某有名ドーナツを差し入れる。





「これ、どうぞ」





「おー、さすがはイケメン浅川君。気のきかない捜一の元姫なんかより気がきくねー」





「その口元のほくろ引きちぎるぞ、虎太郎。金を出したのは私だ。元っていう前に私は姫だなんて思ったこともないし、言われる筋合いはない」





汐里と二階堂は同期で気心知れた仲で、こんなやり取りはこういった解析が必要な事件のときはよく見られる。
ちなみに二階堂のフルネームは二階堂虎太郎と言って、本人もフルネームを書くのが面倒と言っている。
二階堂は一颯からドーナツを受け取り、部下達に配ると自分も頬張る。




「今は女帝って言われてるみたいだね。まあ、姫より女帝って言われる方がピンと来るわ」





「うっさい。さっさと仕事しろ」





「分かってるって。でもさ、こういうややこしいサイバー関係のことは公安の方が詳しくない?これ、七つの大罪絡みの事件でしょ?公安には元カレの一巳がいるんだし、頼めば――いででで!?」






二階堂は汐里の前では禁句の事を言ってしまい、彼女に本気でほくろを引きちぎられそうになっている。
一颯は汐里を羽交い締めにして止めるが、暴れる彼女の頭突きを顎に食らって呻く。
汐里の前では未だに≪公安≫と≪氷室一巳≫という名前は禁句だった。
あと≪元カレ≫も。





「二階堂さん、毎回毎回ピンポイントで京さんのブチ切れスイッチ押さないでくれますか!?止める俺の身になってくださいよ!」







「あー、ほくろ取れるかと思った。だって、京の反応楽しいし、押すなって言われたら押したくなるじゃん?」






「俺の顎がいつか割れます!」






一颯が汐里を羽交い締めにすると丁度一颯の顎の辺りに汐里の頭が来る。
そうすると、暴れる汐里は頭を振り回すので一颯の顎にそれが見事に命中するのだ。
ちなみに汐里の頭は石頭で、それよりも硬い石頭が顎が割れると騒いでいる一颯である。