「まず水岡(みずおか)さんに知っておいてほしいことがあるんだけど、実は僕、音楽を作ってるんだ」
 藪本(やぶもと)くんは、初っ端から私の予想を上回る事実を打ち明けてきた。

「音楽を? す、すごいね」
 気の利かないコメントで申し訳ないけれど、それ以上は言葉が続かなかった。

 こういうときって、どう反応するのが正解なのだろうか。今までそういう人と関わったことがなかったから、よくわからない。

 私の返答は、少なくとも不正解ではないはず。それに、実際すごいと思ったし。

 私の動揺に気づいた様子もなく、藪本くんは言葉を続ける。
「今日も、パソコン室で作業しようと思ってたんだ。自宅でやるよりも集中できるしね」
 それで、特別教室棟にいたのか。

「じゃあ、私のせいで作業を邪魔しちゃったってことだよね。ごめんなさい」
 慌てて謝る。

「ううん、それは大丈夫。で、続きなんだけど、作詞作曲まではできるんだ。でも、歌がダメなんだよね。音程とかリズムとか、そういうのじゃなくて……つまり、歌が下手ってわけではないんだけど、なんかこう、曲のイメージと僕の声が、全然かみ合わないんだ。僕の声に合わせて曲を作ってもいいんだけど、僕の声がいい声かって言われると、別にそんなことはないし。ボーカロイドとかも触ったことはあるんだけど、やっぱり機械の声じゃなくて、人間の声で表現したいって思ってて。ああ、もちろん、ボーカロイドを否定してるわけじゃないんだ。ただ、僕はずっと、自分の作った曲に対して、理想のとする声のイメージがあって、それをずっと探してた」

 え、この人、めっちゃ喋るじゃん。
 突然饒舌になる藪本くんに、私はつい、きょとんとしてしまう。失礼ながら、あまり友達が多い印象もなかったし、クラスでも誰かと話しているところを見た記憶がない。