歌は好きだ。カラオケにも月に一、二回は行く。一人でも行くし、友達と行くこともある。

 そういえば、柚子(ゆずこ)とも一緒に行ったことがあったなぁ。などと、どうでもいいことを思い出しながら、端末を操作する。

 どんな曲を歌えばいいのだろう。友達と一緒のときは、好きな曲をそのまま入れれば、趣味が似ているからそれで問題なかったけれど……。ここは藪本くんの趣味に合わせるべきだろうか、と考えたものの、そもそも彼のことを全然知らないので、どうしようもない。というか、なぜ私はほとんど話したことのない男子とカラオケにいるのだろう。

 お礼をしたいと申し出たのはたしかに私だけど、カラオケに連れて来て、歌を要求する男子って、どう考えてもおかしいでしょ。ちょっとだけ正気に戻った。でも、今さらやっぱり嫌だなんて言うのも申し訳ないような気がするし……。

 平均よりは上手いけれど、プロのレベルには到底及ばない。
 それが、私の歌唱力に対する自己評価だ。

 別にプロを目指しているわけでもないし、上手くなりたいとも強くは思わない。歌を歌うことはただの趣味で、それ以上でもそれ以下でもない。正直、歌の上手さなんて自分ではよくわからない。けれど、一緒に行った友達からは、結構な頻度で上手いと言われる。それはただのお世辞なのかもしれないけれど。

 悩みに悩んだあげく、タッチパネルを操作して、若者の間で流行っている曲を入れた。ネットでも話題になっていて、高校生ならほとんどの人が耳にしたことはあるはずだ。

 イントロが流れたとき、藪本くんも「あ、いいね」と呟いていたので、彼も知っているのだろう。