ついに本番の日がやってきた。
文化祭一日目の土曜日。二日間ともステージイベントはあるが、私の出番は今日だった。
ステージ裏の待機スペース。一つ前のバンドが楽器の片づけを始めている。私がステージに上がるまで、あと一分もない。
「どうしよう……」
藪本くんは落ち着かない様子でつぶやく。一時間前からこんな感じだ。
「ちょっと、なんで藪本くんが緊張してるの? 歌うのは私なんだけど」
「だって、こんなたくさんの人の前で、自分の曲が流れるんだよ。ネットで発表するのとはまた違うし……」
ネットの方がたくさんの人に聴かれると思うんだけどな……。けれど、クリエイターにとっては、それとこれとはまた別の問題なのだろう。藪本くんの繊細な一面を知る。
「大丈夫だよ。それよりさ、例の中学のときの友達は来てくれるって?」
「ああ、うん。昨日、メッセージ送ったら、行くって返事来たし。たぶん観客の中にいると思う。文化祭が終わったら、あのときのこと、改めて謝ろうと思ってる」
「死亡フラグみたいになってるね」
「……なんか上手くいかない気がしてきた」
「わー、ごめんって! もうちょっと自信を持ちなよ。藪本くんの曲、私は好きだし」
藪本くんの作る音楽を、良い曲だとかすごいねとか、そういうふうに褒めたことはあったけれど、好きかどうかは、ちゃんと言葉にしていなかったことに気づく。