強い君を見て
   恋が始まった
   弱い君も知って
   胸が高鳴った

 今なら、前よりもちゃんと歌える。そんな気がする。



「水岡さん。なんか、魔法でも使った?」
 藪本くんの家に上がり、歌った私に、彼は尋ねた。
「魔法?」

「うん。すごく良くなってる。良くなってるんだけど、この前までから上達したって感じじゃなくて、一気に飛び越えてきた、みたいな気がして」

 私の歌を聴いた藪本くんは、嬉しい気持ちと釈然としない気持ちが混ざったような、複雑な顔をしている。

 それはたぶん、気持ちを乗せられるようになったからだと思う。
「魔法なんて使ってないよ」

 でも、あえて言うなら、恋の魔法ってやつかもね。そんな恥ずかしすぎる言葉を飲み込む。

「そっか。うん。でも、僕の理想通りの、いや、理想以上の曲になった。水岡さんはどう?」
「私も、すごくいい曲になったと思う。自分で言うのも恥ずかしいけど」

「そしたら、あと何回か録って、それでミックスしてみようかな。その辺は僕がやるから、完成したら、一回データ送る。で、あとは文化祭本番って感じか」

 文化祭が終わったら、こうして藪本くんの家で歌うのも終わりなのだろうか。それは、なんというか……寂しいな。