「あと最近、藪本とこそこそしてるみたいだけど、あんたたち、付き合ってんの? そういうの、本当にやめてほしいんだけどぉ!」

 柚子はさらに音量を上げる。クラスのみんなに聞かせようとしていることは明白だ。

 止めなきゃ。私は別に何を言われてもいいけど、藪本くんに迷惑がかかってしまう。

「藪本くんは――」
 関係ない。すぐにそう否定しようとしたのだけれど、そこに割って入って来た声が予想外で。

「だったらなんなの?」
「……藪本くん?」
 いつの間にか私の後ろに立っていた藪本くんが、柚子を真っ直ぐに見据えていた。

「もし仮に、僕と水岡《みずおか》さんが付き合ってたとして、文化祭のクラスの出し物に何か影響があるの?」

「う、浮ついた気持ちで仕事されると困るって言ってんの。クラスの士気が下がるでしょ!」

 柚子は一瞬、驚いたように目を見開いたが、藪本くんのことをたいしたことのない男子だと判断したらしく、あくまで強気で言い放つ。

「じゃあ聞くよ。他にもクラスの中で付き合ってる人たちもいるけど、そういう人たちも同じなの? それに、野島さんはクラスの出し物の準備に関して、何をしたの? 水岡さんがしてる仕事よりも多くのことをやってるの? 僕には、水岡さんに仕事を押し付けて友達と喋ってるようにしか見えないんだけど。もしかして、それを仕事だと思ってるの? それとも、ただの嫌がらせ? まあ、どちらにせよ、最低だけどね」

 いつもの優しさを感じさせる声とはちょっと違う、よく通る、強い声だった。

「っ……」
 柚子は何も言えないでいる。見下していた男子から反撃されて、困惑しているようだ。

「はい。これ終わった。じゃ、帰るから」
 藪本くんは何も言えなくなった柚子から視線を外し、任されていた装飾のパーツを、今度は優しい手つきで近くの机の上に置いた。