水曜日。文化祭当日まで、あと三日。一昨日の月曜日も、藪本くんの家で練習をした。少しはイメージ通り歌えるようになってきているけれど、まだ足りない。
今は放課後で、文化祭のクラスの出し物の準備を進めていた。私たちのクラスは、喫茶店をすることになっている。
私は板にペンキを塗っていた。
「ねえ、光莉」
柚子が、作業中の私を見下ろしていた。後ろには、柚子といつも一緒にいるクラスメイトが二人。二人とも、つい最近まで私とも仲良く話していた女子で、クラスの文化祭の実行委員だ。
「何?」
私は身構えつつ、表面上はあくまで笑顔で反応する。
「これもやっといて」
作りかけの衣装が、私の眼前に放り出された。衣装作りは柚子たちの仕事だったはずだ。
そもそも私の仕事は多い。柚子が文化祭の実行委員に手を回して、私に多く仕事をさせているらしい。その上、衣装作りまでとなると、確実にキャパオーバーだ。
家に持ち帰って仕上げてくることもできる。けれど、今の私は歌の練習もしなければならない。今日もこの後、藪本くんの家に行く予定だった。
「私……このあと用事があるんだけど」
目を合わせてはっきり言った。
「はぁ?」
ざわついた教室にもある程度響き渡るくらいの大声だった。周囲に緊張が走る。
「文化祭の準備の方が優先でしょ? ってかさ、ちゃんと仕事してくれない? 光莉がそういう態度だと、クラスの雰囲気が悪くなるんだけど。光莉のせいで、クラスの出し物が失敗したら、どう責任とってくれんの?」
強い口調で、柚子は私を責める。
「責任って言われても……」
ちゃんと分担された仕事はしてる。それ以上の仕事を押し付けてくるのは柚子の方。それに、クラスの雰囲気が悪くなるのも、柚子が高圧的なせいでしょ。
正論を並べ立てたところで、意味がないことはわかっている。彼女の目的は、私を糾弾することだ。