「で、さっきの話に戻るんだけど……。僕は音楽を作ってる。そのことを、胸を張ってその友達に伝えたいって、ずっと思ってて。今回、文化祭で頑張ってみようかなって」

「すごいね」
 今度は私がそれを言う番だった。すごく、勇気のある行動だと思う。

「そんなことないよ。まだ、文化祭に呼べてすらないし。それに、よく考えたら、僕は水岡さんのことを利用してるなって思った。結局、自分の都合で、関係のない水岡さんを巻き込んじゃってるわけだから」

「最初にそれを言われてたら、私も断ってたかもしれない。でも、今はちゃんと、歌いたいと思ってる。藪本くんの音楽を聴いて、歌いたいって思ったから」
 上手く言えないけれど、それが今の私の全部だった。

 恥ずかしい宣言をしてしまったことに思い至り、私はすぐに立ち上がる。
「よし! 続きやろ!」
 わざとらしく大声で言って、マイクの前に立つ。



「ん~。なかなか、思った通りに歌えなかったなぁ」
 背伸びをしながら私はぼやく。

 休憩後は、藪本くんもどんどん意見を出してくれるようになった。少しずつ良くなっているような気はするけれど、まだ自信を持って歌えるほどではない。

「大丈夫だよ。まだ時間はあるし」
 時間があるとはいっても、文化祭は一週間後。藪本くんにも焦りはあるはずだ。
 不安な気持ちが強くなってくる。

 帰りの電車で、スマホに転送してあった歌詞を眺める。もう何も見ないで歌えるけれど、文字の羅列として見ると、また何か発見があるかもしれない。

 ――藪本くんが作った恋の歌。
 私も恋をすれば、もっとちゃんと歌えるようになるのかな……。