「休憩ついでに、よかったら昔の話を聞いてくれるかな。別に面白いものじゃないんだけど」
少し緊張感を醸し出しながら、藪本くんは言った。
「うん。聞かせて」
うなずいた私に、彼はゆっくり話し出す。
「僕、中学校のときに、友達に酷いことしちゃったんだ。その友達、絵を描いてて。漫画家になりたいって言ってた。それを、別の友達が日常的にからかっててさ。その話題になったとき、僕も曖昧に笑ってた。本当は否定したかった。僕だってそのときから音楽は作ってたし」
絵を描いていた藪本くんの友達は、きっと強い人なのだろう。
漫画家になりたいなんて、思っていてもなかなか人に言えることではない。
「で、絵を描いてた友達は、そういう雰囲気を察して、僕とあまり話さなくなった。僕も、なんだか話しづらくなっちゃって。それで、疎遠になった。そのときのこと、すごく後悔してるんだ。彼に何かを言われたわけではないけれど、申し訳ないことをしたって思ってる。あのときの僕に、水岡さんみたいな強さがあったら、って」
「私なんて、そんな……。この前も、その子のことを一時的には助けてあげられたかもしれないけど、柚子たちからは嫌われちゃったし。ただの自己満足だよ」
「そうかもしれないけど、そういう行動を起こせることが大事だと、僕は思う。水岡さんは、すごいよ」
「あ、うん。……ありがとう」
ストレートな誉め言葉に、私はぼそぼそとお礼を言う。