「ちょっと休憩しようか」
焦る私を見かねたのか、藪本くんが言った。
「うん。そうする」
私たちの間には、なんとも言えない気まずさみたいなものが漂っていた。
「……お茶のおかわり、持ってくるね」
藪本くんは部屋を出て行った。
私は再び一人になった。改めて、先週までまともに話したこともなかった男子の部屋にいることを意識してしまう。
「お待たせ」
「ありがとう。ちょっと休憩したら、もう少し歌うから」
藪本くんからグラスを受け取ってお茶を飲むと、私は言った。
「うん。でも、無理はしないで。水岡さんは納得いってないって顔してるけど、十分、上手いと思うよ。少なくとも、僕は感動してる」
「それは、自分が作った曲に声が入ったからでしょ。満足はしてる? ステージで、私がこのクオリティで歌ったとして、やり切ったって言える? 今の私の歌は、完璧に藪本くんのイメージ通りなの?」
苛立ちを感じて、私は言った。その苛立ちが、気を遣って優しい言葉を選ぶ藪本くんに対するものなのか、それとも、上手く歌えない自分に対するものなのかはわからなかった。
いつの間にか、こんなにも歌うことにのめり込んでいる。
「それを言われると、そうだね……。まだまだかもしれない」
藪本くんは困ったように後頭部をかいた。正直者だ。
「だったら、納得いくまでやらなきゃ。もっと、藪本くんの意見を聞かせて。どれだけ厳しく言われても、私は最後まで歌うから」
言い終わってから、責めるような口調になってしまっていたことに気づく。
「……うん。ありがとう」
部屋の空気が、重く、苦しいものになってしまったような気がした。