階段を上って、二階の藪本くんの部屋の前。
「どうぞ」

 もう一度、お邪魔します、を言うのも変だなと思いつつ、無言で入室して。
 飛び込んできた光景に、私は目を見張る。

「何これ。すっご……」
 さっきまでのドキドキがどこかに飛んでいってしまうくらいの驚きだった。

 藪本くんの部屋には、高級そうな機械がたくさんあったのだ。
 面積こそ広くないものの、本物のレコーディングスタジオみたい。本物なんて見たことないけれど。

「とりあえず、飲み物持ってくるね。ウーロン茶で大丈夫?」
「うん。お構いなく」

「そこ、座ってていいから」
 藪本くんは、座布団を指さしてから部屋を出て行った。

 私は言われた通り、座布団に座って部屋の主を待つ。
 クラスメイトの男子の部屋に一人残されて、そわそわしてしまう。正座をしていたことに気づいて、足を崩した。

 改めて、藪本くんの部屋を見回す。
 狭く感じたけれど、それは物がたくさん置かれているからで、高校生の子どもに与えられる部屋としてはそこそこ広い方だと思う。

 ドアから一番遠い角には、作業用と思われるデスクがある。デスク上には、何やら高性能そうなパソコンと電子ピアノ。モニターは二画面ある。椅子は背もたれが高く、曲線を描いていた。長時間の作業を必要とする人がよく使っているようなものだ。ゲーミングチェア……だっけ?

 その隣には、アーティストが歌を収録する映像などでよく見る、マイクスタンドがあった。マイクの手前には、こちらもよく目にする、円形で網状のアレが設置されている。スマホで『マイク 手前 網』で調べるとすぐに出てきた。ポップガードというものらしい。本棚には、作曲に関する本がたくさん並んでいる。

 この人は、本気で音楽に向き合っているんだ。
 今さらながら、そんなことを思った。
 本気で何かをしている人に、私は初めて出会ったような気がした。

「……すごいなぁ」
 思わず呟きが漏れる。