こういうとき、どんな服を着ていけばいいのかわからずに、一時間弱も悩んでしまった。結局、黒いパーカーに水色のロングスカートという、無難な服装に落ち着いた。紺色のジャケットを羽織って家を出る。

 電車を乗り継いで、藪本くんの家がある駅に到着。
 改札前で藪本くんと合流する。白いトレーナーに、ブラウンのスキニーパンツ。シンプルながらそこはかとなくお洒落に見える。あとスタイルが良い。失礼ながら、チェックシャツにジーパンという格好を勝手にイメージしていたので、少し意外だった。

「よし。じゃあ行こうか」
「う、うん」

 私の返事がぎこちなかったのは、私服で待ち合わせをするなんて、なんだかデートっぽいな、と思ってしまったからだ。すぐに頭をぶんぶんと振って、そういうのじゃないから、と自分に言い聞かせる。

 駅から歩いて五分のところに藪本くんの家はあった。大きくも小さくもない、普通の一軒家だった。

「……お邪魔しまーす」
 小声であいさつをしながら、藪本くんが開けてくれた玄関のドアをくぐる。

「じゃ、僕の部屋に行こうか」
 藪本くんは普段と変わらないトーンで言った。

 女子を自分の家に招く男子って、普通はもっと緊張するもんじゃないの? それとも、藪本くんは意外とそういうことに慣れているのだろうか。

 とにかく、私だけ緊張しているのが、なんだかバカバカしくなってきた。
 それなのに――。

「あ、今日は家に誰もいないから」
「そう……なんだ」

 おそらく、気を遣わなくても大丈夫だよ、的な意味合いの発言なのだろう。それを私もわかってはいるのだけれど、二人きりだということを意識してしまって……つまりは逆効果でしかない。