『一年生のフロアの見回り、終わったので帰っていいですか?』

 他の生徒会役員たちも信じない。一体どうすれば。
 そこへピコンと新着のメッセージ。それは生徒会会長、高梨マーガレット先輩からのものだった。

『田中まどかさんはどのような様子でしたか?』

 僕は応える。

『特に変わりなく、誰かを探していると言っていました』

 僕の返信に他生徒会役員からの既読がつく。みんなが会長の次の言葉を待っている。ピコン。

『わかりました。他の生徒の避難はむやみに不安を煽ることになります。皆さんは田中まどかさんの位置を速やかに報告し、また可能であれば確保してください』

 すぐに他役員からの返信が続く。

『会長わかりました!』
『了解です! 会長!』

 よかった、みんな僕の話を信じてくれて。
 なんて、僕は思わない。結局みんな、僕ではなく、会長の言葉を信じただけだ。
 なんだこいつら。
 クソが。
 スマートフォンを叩きつけたい気分だが、高価なものなのでやめておく。代わりに壁に会長の顔を思い浮かべて思い切り殴る。

 高梨マーガレット先輩。

 日本とイギリスのミックスでブロンドのロングヘアを靡かせる才色兼備、おまけに頭脳明晰、文武両道。まさに完璧な人だ。

 だから嫌いなんだ。高梨マーガレットさえいなければ僕が今年の生徒会長選挙で二年生ながらに会長の座につけるはずだったのに。
 壁に打ちあてた拳がジンジンと熱を帯び、代わりに頭はスーッと冷めていく。そして思いついた。

 そうだ。

 僕が田中まどかを捕まえて手柄をとってやる。そうすれば会長よりも僕が優れていることを証明できる。そして先生たちも僕に大きな借りができ、会長の解任、及び次期会長を僕に推薦するように仕組めば。

 そのためにも誰よりも早く、田中まどかを捕まえなければ!

 そんなことになっているとはつゆ知らず、私、田中まどかは木原先輩を探し、昇降口へ。
 木原先輩の下駄箱の中にはまだ靴がある。つまり、まだこの校内のどこかにいるということ。すると、後ろから声が。

「あれ、まどかちゃん。どうしたの?」

 そこには違うクラスの同級生の女子が立っていた。その子の名前は。

「植村紗枝、さん」
「もー紗枝ちゃんでいいって言ってるのにー」