「そう。これで撃たれた相手は、撃った相手のことを好きになります。弓矢で『射抜く』のではなく、拳銃で相手のハートを『撃ち抜く』というわけです!」

 天使の圧倒的なまでのドヤ顔に私は顔を引きつらせた。
 そんなバカな話があるわけない。
 いくら占いに傾倒しつつある私でも現実と幻想の区別はつく、と言い切りたいのにさっきから目の前で起きている信じられない状況が、この冷たく存在感を放つ拳銃の効果を信じざるを得なくする。

「弾は六発で、人体を傷つけることはありませんが……」

 天使はそういうと黒板に銃を向ける。

 バンッ!

 強烈な発砲音と、焦げ臭い火薬の匂い。黒板には銃痕がくっきりと刻まれている。

「威力は実際のものと同等ですので扱いは注意してください」

 天使は「はい」と拳銃を差し出し、私も差し出されるままに受け取った。金属特有の重量感と手に馴染むグリップの握り心地……というか。

「ちょっと、黒板! どうすんの?!」

 天使の表情は笑顔のまま変わらない。なんだか事務的に処理されているようで慌てたり疑問を抱く私の方がバカみたいだ。

「日没と同時に拳銃は消え、無機物に対する破損も、全て元に戻るのでご安心を。それと弾を全て撃っても拳銃は勝手に消えますので重ねてご安心してください」

 安心って。

 拳銃をよく見ると真ん中の膨れた箇所、シリンダーに入っている銃弾が見えた。これを撃ち込めば、相手は私のことを。「全部で、六発」カチリ、カチリ。回転するシリンダーに装填された銃弾を目で数える。一、二、三、四、五……。

「え、さっき撃ったから」
「あ、五発ですね」
「えぇ」

 するとまたしても天使が光りだす。

「あぁ、今日は忙しいな」
「忙しいって?」
「他にもこの学校にいるんですよ。その時計の持ち主が」

 それじゃ頑張ってください、と天使は言い残し、光の玉となって私の腕時計の中へと消えていった。
 教室には私一人。さっきまでの状況を他人に説明しても誰も信じてくれないだろう。自分自身、夢を見ていたという方が納得いく。しかし手の中に残る拳銃、そして黒板に刻まれた銃痕がどうしようもなくいまが現実であると突きつける。

「マジか」

 天使は去り際、この学校に腕時計の持ち主が他にもいる、と言っていた。
 すると、薫の言葉が脳裏をよぎる。

「寛也のこと、狙ってるやつがいるかも」

「そしたら先越されるぞ」