腕時計から現れた光は、球体から徐々に私と同じ、もしくは少し大きいくらいの人の形に変わる。
 ローマ人のような白い布を巻いた格好。背中から生えた純白の羽。ふわふわとした金髪に中性的な顔立ち。そして、頭上には光の輪っかが浮いている。

 それはまさに……。

「恋の、キューピット?」
「いいえ、私は天使です!」
「天使……」

 キューピットと天使、何が違うのだろう。そんな私の考えを読み取ったのか、天使はこほん、と小さく咳払い。

「いいですか? キューピットとは愛の神。天使は神の意志を人間に告げる者です。神が施主、私たち天使が下請けのようなものです」
「は、はぁ……」
「ですが、今の日本には神を信じるものが少なすぎるんですよ。神という言葉のまぁ軽いこと。神絵師、神ゲーマー、マジ神とか! 本当の神様の代わりを探すのも大変なんですから! ここ伏線です!」
「わかった! わかったから!」

 ほんとは全然わかってないけど天使の圧に負けてそう答えてしまった。伏線? なんのこと?
 天使は再び、こほんと咳払い。

「さて、その時計を持っていると言うことは恋に悩んでいると言うことですね?」
「そ、そうですけど……」

 天使の掴めない言動にさっきから調子が狂いっぱなしだ。腕時計が光って、そこから恋のキューピットが現れて、そしたら天使だって言われて。なんだこれは。
 頭が混乱してきた私の前で天使は振り返りごそごそとしている。

「そんなあなたに、これを授けましょう!」

 授ける?

「まさか、弓矢?」

 スマートフォンの画面に表示された恋のキューピットが持っている矢先にハートがついた弓と矢。射抜けば、相手は恋に落ちると言われているあのっ……!

「え」

 天使が再び私の方へ振り返り、差し出した手にはファンシーな弓矢ではなく、鈍く黒光る生々しいまでの、拳銃が。

「これはコルトパイソン」
「コ、コルト……え?」
「三五七口径。六インチの回転式拳銃の中では有名な代物です。あのシティーのハンターも使ってるやつですよ」
「ちょっとまって、なんで拳銃なんか」

 瞬間、脳にピンと糸が張るような感覚。キューピットが、違うか天使が渡してくる。さっき天使はこう言った。恋に悩んでいる。そんなあなたにこれを渡しましょう。

「まさか」

 天使はニヤリ。