昇降口近辺。

「紗枝様のお通りだー!」
「道を開けろー!」

 柔道部をはじめとする屈強な男子生徒たちが椅子に座った私を神輿のように担いで練り歩く。
 すれ違うものはみんなこのサブマシンガンで撃っていく。すると私の信者となり、この行列に後に続く。
 これぞ私が望んだ世界。
 みんなが私を求め、私が必要とされている。

 なんて気持ちがいいのだろう。

「あれ? あれれ?」

 手に持ったサブマシンガンがじんわりと光だし、突然重量をなくし泡のように消えた。
 瞬間、私を求めていた声が止み椅子を担いでいた生徒たちも手を離す。
 地面に転げ、肘を打った。
 折れてはいないが相当痛い。なのに誰も私のことを見ていない。

「いたた、痛いなぁ」

 しかし、生徒たちはなぜ自分たちがここにいるのか、今まで何をしていたのかを不思議がり、散り散りに。するとここには私一人しか残らなかった。

 まただ、またこの感覚。
 私はただ、さみしいだけなのに。

「うわぁぁああああ!」

 そこへ大声をあげながら一人の男子生徒が迫ってくる。あれは確か生徒会副会長の安藤亮平だ。

「ど、どうしたの?」
「藤野先生がおかしくなってしまった! 僕のせいだ!」

 ひどく怯えた様子の安藤くん。
 彼が走ってきた中庭を覗くと藤野先生が首を傾げながら辺りを見回していた。
 きっと藤野先生も誰かの拳銃で撃たれおかしくなっていたのだろう。
 なんだか今日は疲れた。

「藤野先生ならここには来ないよ」
「なぜそう言い切れる?」
「別になんでもいいでしょ。そんなに怯えてみっともないな」

 あ、しまった。疲れからか気が抜けてしまい、キャラを忘れていた。
 だけど、久しぶりに素で話した気がする。
 自分の口で呼吸ができる感覚とでもいうのか、とても楽だ。

「なんだと! 僕は、いずれ生徒会長になってこの学校を変える男だぞ!」
「あっそう。それは楽しみ」
「だけど、それは一人ではなし得ないことを今回の件で痛感した。だから、君が必要だ」

 え、必要? この私が? 私が欲してやまなかった言葉に雷に打たれたような感動。
 その後の「君たち、一人一人の生徒の協力が必要なんだ」と言う安藤くんの言葉も聞こえなかったくらいに。

「まぁ、こんなたわごと、信じてくれるわけないか」

 意気込んだり、落ち込んだり。正直な安藤くんに惹かれつつも、そんな簡単になびく女だと思われたくもない。
 だからちょっと強気な感じで。