要するにまどかと寛也を引っ付けようとした俺はいわゆる恋のキューピットだそうで、天使は俺の願いを叶えてくれるサポートをすると言う。

「だったら手っ取り早く、まどかと寛也を付き合わせてやってくれよ」
「そういう個人的な願いはちょっと」

「は?」

「あなたは神の化身なのですから等しく平等でなければなりません。特定の人間を贔屓するような真似はご法度です」
「じゃあ、どうすれば」
「例えば、身長、体重、年齢、星座、干支。そういった条件を持つ人間への施しなどは許されます。おみくじとかをそうでしょう?」

 そうでしょうって言われても。

 じゃあまどかを想定して、女性で、年齢は十七歳で、恋に悩んでいる、とか。でもそんな人間、たくさんいるよな。
 そこで俺は閃いた。
 まどかが雑貨屋で買った、希少で貴重だと言うあの古めかしい腕時計のことを。

「なら、ある物を持っている人間を施しの対象とする、と言うのは?」

 天使はニヤリと微笑む。

「可能です」

 そうして俺は天使に恋に悩んでいる、そして腕時計の持ち主である人間の願いを叶えるように伝えた。


「てかなんだよ拳銃って。天使が人に渡すアイテムにしては無骨すぎるだろ。もっとこうファンシーでマジカルなものにしろよ」
「いやいや、今は科学の時代ですから」
「お前、自分で自分の存在全否定してるのわかってる?」

 俺は自身の胸ポケットから腕時計を取り出す。俺がこの腕時計を持っている理由、それは俺が神の化身なんかではなく、ただの人間だからだ。

 俺は天使の存在を知り、諦めていたはずの自分の恋心を再燃させ、まどかと同じ店で腕時計を買った。
 だけど、拳銃を手にして俺は思い直した。

 想いを伝えない。

 そういう「好き」の表現の仕方もあるはずだ。

「俺はまどかの幼馴染で、寛也の親友。それ以上は望まないよ。でも」

 すぅっと息を吐く。
 今一度、自分の心の中を覗くがやはり後悔はないようだ。

「あいつが拳銃を使わなくてよかった」

 下を覗くとグラウンドや廊下のあちこちにさまよう生徒たちの姿が見える。

「それよりどうすんだよ。この状況」
「もうすぐ日没です。それで全て元どおりだからいいでしょう」
「あのゾンビみたいな奴らは?」
「銃で撃たれた人も、日が没すれば元に戻ります」
「ならいいけど」

 何がいいのかわからないまま、俺はぼんやりと沈む直前の紅の太陽を見つめる。日が没すれば元に。

「……え」
「え?」