西日が差す南側三階の渡り廊下。

 外の少し冷えた空気が髪を撫でる。ふいに反対側を振り向くと北側二階の渡り廊下を特別教室の方へと歩く男子生徒の姿が見えた。

 私は拳銃を構え、男子生徒に照準を合わせる。もう間違えない。外さない。そんな自信があった。
 この引き金を引けば銃弾は、確実にその男子生徒、木原先輩に当たると言う確信があった。

 木原先輩と初めて会った日のことはよく覚えていない。
 薫になにか用事があって、会いにいき、薫と話す木原先輩を見たのが初めてだったと思う。

 かっこいいな、と思った。

 それから薫に木原先輩のことを聞いたりして、どんどんと惹かれていった。木原先輩を想うことが楽しくもあり、苦しくもあり。自分は恋をしていると思うとなんだか世界が輝いてみえた。

 そう、私は恋を『していた』。
 恋は『落ちる』ものなのに。

 私は私が嫌いだ。

 この身体も、顔も、声も、全部が嫌いだ。だけど、木原先輩へ叶わない恋を頑張る自分を少しだけ可愛らしいと思えた。だからって積極的にアプローチはしない。努力もしない。

 してはいけないと思っていたから。

 遠くから想う、その程度。それが健気で、身の程をわきまえていて、そんな自分を許せた。
 だから、この拳銃を手にした時、正直戸惑った。

 私は木原先輩が好きだ。
 だけど、
 こんな私を木原先輩に好きになってもらいたいのか。

 私は私が嫌いだ。

 でも、みんなに会って私はわかった。


 みんなに好かれるためにキャラを演じることができる器用な植村さん。

 情熱的で好きな人のためなら頑張れる智恵子ちゃん。

 世界の不条理を受け、それでも誇りを持って生きる高梨会長。


 自分の願いを、欲望を、自分自身を大切にできる人はとても素敵ということだ。

 だから!

 私はトリガーに指をかける。


「なんなんだよこいつら」

 続々と押し寄せる生徒たち。こいつらを抑えるのも限界だった。しかし、俺がここから逃げればこいつらがまどかに何をするかもわからない。どうすれば……。

 そこへ、生徒たちの頭を踏み越え突如現れる人影が。

「とうっ!」
「井上?!」

 井上はどこかの教室のカーテンを身にまとい、さながらヒーローのようないでたちだ。

「姫を守るのは王であり、勇者である私の役目! 農民は引っ込んでいろ!」

 井上は生徒たちの中へと身を投げる。

「誰が農民だ。でもここは頼んだぞ井上!」