さっきから走ってばかりで横腹が痛くなってきた。
 膝に手を置き、肩で息をしていると腰に隠した拳銃が抜き取られる感触が走る。振り向くと薫が拳銃を掴んでいた。

「返してよ」

 薫はじっとこちらを見ている。
 それは怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあり、心配しているようでもあり、哀れんでいるようにも見える。

 どれが正しいのか、私にはわからない。

 それはきっと私に心当たりがあるから。薫に怒られ、哀れに思われ、薫を悲しませ、心配させてしまっているという自覚が私にはある。

「こんなもので相手を振り向かせるなんて、卑怯だろ!」
「でも……」

 薫がなぜこの拳銃の効果を知っているのか、私は考えなかった。それよりも薫の言葉が私の胸の奥深くに突き刺さる。それは私がずっとこの拳銃に、私自身に抱いていたものだったから。

 私は今、とんでもなく卑怯だ。

「いたぞー!」
「田中まどかを捕まえろー!」

 階段の下から、そして二階の廊下から植村さんに撃たれた生徒会メンバーをはじめとする連合軍が迫ってくる。

「なんだよあれ」

 あっけにとられている薫から拳銃を奪い取り、私は残された通路である特別教室棟へと通じる渡り廊下へ突き進む。

「おいまどか!」

 私はもう引き下がれないんだ。


 残りの弾はあと三発。