迫り来る生徒たち。
 これだけの数、残弾が四発の私の拳銃では意味がない。武道の経験もないのに、とっさに腕を曲げ防御の姿勢をとると、深い青色が私の視界の隅で輝いた。

 こうなったら。

 私は右腕につけたラピスラズリの数珠を引きちぎり、廊下にばらまく。すると迫り来る生徒が足を滑らせ、その後方の生徒もみんな転げていく。

「ありがとう、幸運を呼ぶ数珠よ」

 私は急いでその場を走り去る。

 渡り廊下を走り抜け、特別教室棟の二階まで駆け上がる。手すりから身を乗り出し、下を覗くと追っ手の気配はなかった。私はヘロヘロと座り込む。

「なんなのよ。人によって銃の種類が違うなんて。聞いてないんですけど」

 腕時計に向かって喋りかけても返事はなかった。ここにいても埒があかない。
 私は立ち上がり、廊下へと身体を振り向けると目の前に迫り来る小柄な人影とぶつかり、またしてもそこへ座り込んでしまった。

 ガチャン!

「ご、ごめんなさい」

 瞑っていた目を開けると尻餅をつきながら女の子が頭を下げていた。薄手のカーディガンを羽織った顔立ちが幼く、可愛らしい女の子だ。

 大丈夫、と手を振りながらさっきの音が気にあった。異様に重そうで、なにやら金属っぽい音だった気が。

「ええ!」

 その答えはすぐ目の前にあった。

 正確には目下。もっと正確に言えば女の子の後ろにごとり、と存在感を放つ卒業証書を入れる筒のようなもの太い円柱が。
 さすがに私でもわかった。映画やバラエティ番組で見たことがある。いわゆるバズーカだ。

「あなたも腕時計の持ち主なの?」
「えっと……?」
「私、二年の田中まどか」
「先輩でしたか。私、一年の吉田智恵子と申します。確かに福引きの景品でもらった腕時計はしていますが、というと先輩もあの天使からなにかしら武器を」
「う、うん」

 私の腕時計は福引きの景品ではないが、智恵子ちゃんが巻いている腕時計は私と同じものだった。植村さんはお土産でもらったと言っていたし、全然希少でも、貴重じゃないじゃん。あの雑貨屋め。

 私は腰に隠した拳銃を取り出す。
 智恵子ちゃんは私から拳銃を受け取ると、まるで宝石に光をすかして本物か見極める鑑定士のようにあらゆる角度から隅々までを見回す。

「コルトパイソンですか。いい趣味してますね」
「知ってるの?」