下駄箱の死角を利用して逃げるのも限界だった。廊下に出ると生徒会の生徒に挟み込まれ、逃げ場がなくなってしまう。

「いいから来るんだ」

 生徒会の一人に腕を掴まれそうになったその時、

 ダダダダダダダッ!

 連続する破裂音が鳴り止むと、地面には私を挟み込んでいた生徒会の二人が倒れていた。下駄箱の迷路に迷い込んでいた他の生徒会の生徒たちも廊下に出てきて目の前の状況に唖然。私も顔を見上げ、その発砲音がした方へと身体を向ける。

「植村さん……?」
「やっとこっちを見てくれたね」

 植村さんの手には銃火器のような鉄の塊がたずさえられており、足元にはギターケースが放ってある。あの中に隠していたのか。ていうか、私の拳銃と種類違いすぎない?

「まどかちゃん」

 突然名前を呼ばれ、私は頷くことしかできない。銃口がこちらを向いている。

「私のこと、うざいって思ってるでしょ」
「そ、そんなこと」
「私ね、両親の仕事の都合でよく転校していたの。転校生は転校してすぐは主役。みんなの注目の的。だけど徐々に興味を無くされる。それが嫌で、私はみんなに好かれるように努力した。愛想が良くて、面倒見が良くて、みんながちょっとだけ下に見るような可哀想で残念な子を演じてきた」

 確かにそれは、私が植村さんに抱いていた印象そのものだった。まさか全て演技だったなんて。

「私だって」

 植村さんの指がトリガーにかかる動きがゆっくりと見えた。私はとっさに下駄箱の影へと飛び込む。

「私だって好きでこんなキャラやってんじゃない!」

 内臓を震わせる発砲の振動に目と耳を塞いで耐え忍ぶ。音がやむと他の生徒会の生徒たちもみんな、地面に倒れていた。

「私は誰からも愛されたい。そんな願いを叶えてくれたのがこのサブマシンガン、MP7ってわけ」

 地面に伏していた生徒会の生徒たちがヨロヨロと起き上がる。

「紗枝様……」
「紗枝様、なんと愛らしい」

 生徒会の生徒たちはみんな、植村さんの周囲を取り囲み、顔を赤らめている。植村さんを見つめる眼差しはキラキラと輝いており、あれは俗にいうメロメロな状態だ。

「私、喉乾いちゃったな」
「すぐに買って来るよ! 紗枝様!」

 さっきまで私を追っていた生徒会の生徒が私を素通りして走り去っていく。

「銃が重くて腕が疲れちゃった」
「紗枝様! マッサージさせてください!」