ははーと笑う顔が引きつる。

 植村さんは正直にいうと苦手なタイプだ。うまく言葉にできないんだけど。植村さんが背中に背負っているギターケースが目につく。

「あれ? 植村さ……紗枝ちゃんって軽音部だっけ?」
「あー、まぁね。……ってうわぁ!」

 植村さんは体をひねり、私にギターケースを見せるが足を滑らせ派手に転倒。それはあまりに可愛らしくて、あざとくて。最終的には甘ったるい声でこう嘆く。

「いたたた、転んじゃったよぉ」

 ね。こういうところが苦手。しかしだからと言って目の前ですっ転んだ同級生をそのままにするほど私も鬼じゃない。

「大丈夫?」
「ありがとー」

 私が差し出した腕を掴む、植村さんの腕の袖がずり落ちる。そこには見覚えのある古びた腕時計が光っていた。

「その時計……」

 間違いない。私が左腕にしている腕時計と全く同じものだ。私は無意識に左腕を抑える。

「どうしたの?」
「いや、素敵だなって」
「ありがとー。パパが今海外に出張中でお土産に送ってくれたんだよぉ。なんか、願いが叶う腕時計らしくて」
「そうなんだ……じゃあ私そろそろ行くね」

 植村さんも腕時計の持ち主だなんて。彼女の狙いが誰かはわからないが先を急ぐに越したことはない。

「どこに行くの?」
「ちょっと人を探してて」
「そうなんだ、私も探してあげるよ」
「いやいいよ。悪いし」
「遠慮しないでよ。私とまどかちゃんの仲でしょ」

 どんな仲だよ、と言いかけて飲み込んだ。

「本当にいいから」
「見つけた! 田中まどか!」

 そこへ数人の男子生徒が。みんな腕には生徒会役員の腕章をしている。植村さんは生徒会の生徒と私を交互に見て首をかしげる。

「何か悪いことしたの?」
「ココロアタリナイヨ」

 嘘だ。
 ありまくる。
 私はさっき、安藤くんの前で銃を発射してしまった。銃刀法違反。器物破損。

「そっか。まどかちゃんもそう言ってるし、みんなも落ち着いて。ね?」

 生徒会の人たちは顔を見合う。

「まぁ、俺たちもよく理由はわかってないんだが、とりあえず生徒会室に来てもらえるか?」
「だって。まどかちゃん行こっか」

 優しく、そして私を包み込むような植村さんの声が無性に腹立たしい。

「ごめん、私急いでるの」
「でも、みんなも困ってるし」